平和が崩れる音
「はぁ~。なんでいきなりこんな事に……今朝の夢といい朝の母の家出発言と言い……。今日は厄日だ……」
と、そんなことを言い、ユウと夕食の買い出しに出かけている。
理由?
料理をしようとして冷蔵庫を開けたら何もなかったからだ。
「厄日だ~。なんてそんなことないよ~♪ ……って今朝の夢?」
ユウが顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「? うん。今朝、変な夢を見ちゃって……」
「どんな夢なの?」
「う~ん。……どんな夢だったっけ?」
記憶を探るが何も出てこない。
「え~。つまんないの」
そう言いながらユウは自分が食べたい物をどんどんかごに入れてくる。
というかほぼ一種類だ。
「ちょっ! これヤキソバばかりじゃないか!」
「いいじゃん♪ だってお母さんいないんだもん♪」
その笑顔、100パーセント。
「よくない! 栄養を考えなさい!」
「え~。いいじゃん♪」
「も・ど・し・て・こい!」
「はい…」
尻尾があったらたれてたかな……。
「……っと、食品はこんなものでいいかな」
「了解しました~♪」
レジに出して会計をする。
「金額14,600円です」
「えっ!?」
巨額の金額に驚き、よくよく籠をみると……。
なんとそこには普通に食材を買った上にヤキソバの麺が大量に乗っていた。
山になってる……どうやってのせたんだろ……。
すぐにユウをみる。
「~~♪」
明後日を向いている……明らかだな……ユウは嘘がとても下手だ。
どんなに嘘をつこうとしても絶対に見抜かれる……。
とくにボクは兄だからすぐわかる。
「はぁ~。しょうがないな~」
仕方なく財布から言われた金額を渡す。
「お兄ちゃん大好き♪」
と言って抱きついてくるのはユウの癖だ。
昔から嬉しいとよく抱きついてくるのだ。
「仲がいいですね~。……お兄ちゃん!?」
会計のおばさんがびっくりしてる……もう慣れた。
目から涙が出てきそうだけど……。
「ほら。ユウかご持って」
会計を後にする。
おばさんは……うん。ほおっておこう。
次の人も固まっているけどそれもほおっておこう。
ボクの内心は涙で溢れかえっていたが……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
夜、あの後数件回っていろいろ買った後、家に帰るとユウが早速台所に向かった。
「お料理♪ お料理♪ た♪のし~いな~♪」
今日もご機嫌なユウ。
まぁ、今日はあれだけヤキソバ買ってやって今日の晩御飯がヤキソバなら当たり前かな……。
「ユウ。いつもの行ってくるから。その間の留守番よろしくね」
「はぁ~い♪ なるべく早く帰ってきてね♪ ユウ一人じゃさびしいもん♪」
「はいはい。じゃあ今日は早めに終わらして来るよ」
そう言って玄関に向かい靴を履いて家を出る。
いつもの……とはジョギングのことだ。
ただ……この日は家を出ちゃいけなかったんだ……。
ピピピピ ピピピピ
「電話だ~♪」
スキップで電話の受話器を取る。
「もしもし♪ 赤砂です♪」
いつものノリで電話に出たが相手の声を聞いたとたんにその声は急にしぼんでいく。
そして相手の用件を聞くと同時に受話器を落とす。
「……お兄ちゃん……」
兄を呼ぶ力の無い声は何かを予感してしまった。
そしてその悪い予感はみごと的中してしまったのである。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「はぁ……はぁ……はぁ……」
一人、夜闇を走る少女……。
汗が滴り、服は汗でほとんど濡れていた。
しかしよく見るとところどころ服は切れたり破れたりしていて、赤く染まっていた。
その赤はだれがどう見ても血(、)だとわかった。
顔は、きょろきょろみわたしていてその姿はまるでドラマみたいに何かに追われているように……ではなく、本当に追われていた。
「ここか!? ……いない。こちらB、目標が見当たりません。……はい、引き続き索敵を続けます」
とっさに身を隠した少女は離れていく足音にほっと胸をなでおろし隠れていた場所から出てくる。
「はぁ……はぁ……体が……もう……」
それでも走る少女。
「まだ……はぁ……はぁ……遠くに……はぁ……行かなきゃ。はぁ……ここじゃまだ……だめ……」
走る少女。
しかし限界が来たのか……。
――ドサッ
倒れこむ少女。
「だめ……。はぁ……はぁ……でも……ここまでくれば……はぁ……はぁ……はぁ……少し……休む……かな……。休んだら……行かなきゃ……」
空を見上げる少女。
「誰か……助け……て………」
空に流れ星。その少女の髪は透き通った青色だった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
俺はある組織の幹部。姓を天童。名を雑賀と言う。
今はボスの命令で写真に写っている人を探している。理由は極秘だ。
だが、俺の目的は実は命令されたものと少し違う目的もあった。
いつもは本部からの直接命令は拒否していたのだが、今回の命令は雑賀にとってもいい内容だったので今回はこうして動いているのだ。
さて、誰に聞こうかと思ったところで、缶ジュースの自動販売機の横にあるベンチに座っている可愛い子を発見する。
周りをボンヤリしながら見ていて缶の中身を飲んでる。
「失礼。お嬢さん」
返事がない。ただの屍……じゃない。
聞こえなかったのか?
「お嬢さん。ちょっといいですか?」
また返事がない。まさか耳が遠いのだろうか? この年で?
それないだろうと思い、もう一度声をかける。
「あの……聞いていますか?」
まだ気づかない……。
失礼を承知の上で目の前に手をひらひらとしてみる……。
無反応だな……考え事か……。
だがこちらも仕事の上でやっている。
しかたがない。
もうちょっと大きな声で言ってみるか。
「あの!!」
「!?」
ハッとしたような顔つきになる少女。
やっと気づいてくれたか……。
さ、さすがに疲れたな。精神的に……。
「どうかしたんですか? そんな息切らし……は! まさか変質者ですか!?」
身をよじりながら答える少女。
なにか勘違いしている!?
すぐに訂正せねば……ッ。
「違いますよ! さっきから話しかけているのに気づいてくれなかったではないですか!」
「え? そうですか? ちなみになんて言ってたんですか?」
「はい。失礼。お嬢さんって……」
ピクッ。
ん?
なんか少女の肩が動いたような……?
「すいません。急いでいるので……では」
そう言って走り去る。
いきなり立って走り去ったことに呆然と見ていて、角を曲がったところでやっと雑賀もその行動に気づき……、
「え? ま、まって……」
焦って後を追ったが、角を曲がるが誰もいない。
「……速いな。うちの事務に欲しいくらいだ。後で住所を調べておくか。えっと、特徴は銀髪……いや。白銀髪の美少女っと……」
いつの間にか持っているメモ帳にさらさらと書いていく。
左手にはいつ撮ったのか白銀の髪を月で輝かせる美少女の写っているスマートフォンと言われているケイタイがあった。
「しかし聞き込みができなかったな……まぁいい。他にも人はいる。聞き込みを続けるか」
スマートフォンをポケットに入れ、右手に持つ写真を見る。
そこには透き通った青色の髪の少女が写っていた。