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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第五章 自由という名の者による襲来
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もしもし、警察ですか?



「はぁぁ……」


 ため息をつく。


「どうかされたのですか? 天童幹部。まるで家に帰りたいというホームシックのような顔ですよ?」

「どんな顔だ!!」


 座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。

 現在いる場所は雑賀がまとめあげているジーダスの建物の内の一つにあたる。

 幹部クラスの人は一つずつジーダスから建物を授けられ、そこの人員達を育てろとの命を受ける。


「しかし……その呼び方なんとかならないのか? 妃鈴秘書」


 俺は妃鈴という名の秘書に呼び掛ける。

 幹部にはそれぞれに専属の秘書がいる。

 そして俺の専属の秘書が妃鈴という事だ。

 美人という枠に入る。しかもクール系。というかクールビューティーだ。

 髪は肩下までのストレート。


「無理ですね。天童幹部は幹部ですのでこうなってしまいます。雑賀幹部は天童幹部よりおかしいと思いましたので。それとも雑賀幹部と呼ばれたいのですか?」


 あきらかにどちらもおかしいがなんとなく雑賀幹部とはおかしいと思ったので、断っておいた。


「……いや……遠慮しておこう。……はぁ」

「本当にどうかされたのですか? 上の方から指令が? いつも見たく断ればいいじゃないですか」


 心配そうに聞いてくる妃鈴秘書を、これでかたくなければ……と思いながらも質問に答えた。


「いや……早く家に帰りたいなと……」

「ホームシックですね」

「そうだな」

「否定……しないのですね」


 ちょっとびっくりする妃鈴。

 断らなかった理由は、あながち間違っていないからである。

 気をとりなおした妃鈴は、隠していたものを出した。


「しかし、それでも仕事はしっかりやってもらわなければいけません」


 その言葉と同時にドンッと机の上に書類を山積みに置かれる。

 その量は五千枚はくだらないだろう。


「なぜこんなに!?」


 驚く雑賀を後にし、妃鈴が当り前ですと言わんばかりに話し始めた。


「天童幹部が一月ほど前から女と(うつつ)をぬかしていたではいませんか。そのツケです」

「なん……だと……」


 素直に驚く。


「今日中に終わらせてください。あとでコーヒーをお持ちいたします」


 さっそうと去る妃鈴秘書。

 ガチャンッと、扉を閉めて外から鍵をかける。妃鈴はこの部屋から一瞬にしていなくなった。

 少しの間動かなかった雑賀はというと……


「フ……フフ……フフフハハハハHAHAHAHAHAHA!!!!」


 狂ったように笑い始めただけだった。


 しばらくして笑いが治まり、気を落としながらも仕事を始めた。

 その手際はとても速かった。

 迅速に目を通し、ハンコを押して、次の書類を見ている。その繰り返し。

 知力に関する力は元々高かったため、そして速読の心得を持っていたため、このくらいは造作もなかった。


 数時間が経ち、幹部室の扉が開けられた。


「天童幹部。コーヒーが入りました。少し休憩しましょう」


 チラリと残りの書類をみる。

 そこには五千枚はくだらなかった書類の山が半分以上なくなっていた。

 これならば業務時間内に終わるだろうと思い、ソファーがあるので、そちらに行って座った。

 丁度、妃鈴が一つのコップとコーヒーをつごうとしているところだった。


「妃鈴秘書も一緒にどうだ?」


 彼女に誘いを入れてみる。


「しかし……」


 仕事中だからか、彼女は扉の向こう側を気にするような感じで目を揺らす。


「気にするな。ここは俺が仕切っているんだ。文句は言わせん」

「わかりました。では一緒に飲ませていただきます」


 どこに隠していたのか、コップをもう一つだす。


「……予想してた?」

「ええ。秘書ですから」

「…………」


 それだけの言葉で片付けるとは……。

 ……秘書……恐るべし……。


 少々驚いている雑賀を無視し、二つのコップにコーヒーを注ぐ。

 コーヒーの独特の香りが部屋に広がり、疲れを少し癒す。


「できました。冷めないうちにどうぞ」


 そういってコーヒーの入ったコップを前に出してくる。

 礼だけ言ってコーヒーを口の中に入れて一息つく。

 妃鈴もそれをみならい、俺の後に続いてコーヒーを一口飲んだ。


「ときに天童さん」


 彼女は仕事中じゃなければ俺の事を天童さんと呼ぶ。


「ん?」

「先ほどまで何で悩んでおられたのですか?」

「ああ。そのことか。実は今、高校生の女の子が家に義妹として来――」





 ピピポ。

 プルルルル。

 ガチャ。



「もしもし、警察ですか?」




「ちょっと待て!! 早まるな!!」

「早まっておりません。的確な判断です」

「なぜ的確な判断で警察につながるんだ!!」

「日ごろの行いのせいですね」

「俺が毎日何をしたというのだ!」


 妃鈴がそれを言うかって目で見てきた。


「すみません。見間違いでした」


 ピッと携帯の通話を切り、顔をこちらに向けて質問に答えてくれた。

 ちなみに警察の正式名称とは『ロピアルズ警察会』だ。


「私の胸やお尻を触るなどのセクハラ行為」


 たまたまあたってしまっただけでは……ッ!

 実は計画的にやっている雑賀である。


「この部屋に隠されている28冊のエ……あえて18禁の本と言いましょう」


 なぜそれを!?

 机の引き出しを開けて、さらに中敷きを取ったところに一つ、本のカバーを別の物にした物と、いろいろな場所に隠してある。


「いつも女をとっかえひっかえ。何人の人と現を抜かしているのですか?」


 ……なぜこんなにも……ッ!

 雑賀は震える足をなるべく見えないように隠している。

 気持ちは完全に沈んだ。


「まだ言いますか?」

「できればやめてもらいたい……」

「そうですか。これまでの言ったことの中に反論はありますか?」

「女ととっかえひっかえはしていないぞ!」


 実質、していたが頑張って反抗してみる。

 しかし妃鈴は即答。


「よく違う女と歩いていますね」

「そ、それは……か、家族とか任務中で……」


 息苦しくて、早くこの空気から解放されたかったが……。


「一月ほど前から任務をした回数を数えてみました。任務はほとんどしていませんね。ということは家族? すごいです。30人以上の大家族なのですね。天童さんの家族は。つまり、一人一日ずつ映画やら、買い物やら……かなりの家族想いなんですね。いや……家族以上ですね。まぁ、性行為はしていませんでしたので、私からのお咎めはないと思ってよろしいですけど。この事を彼女たちに言ったらどうなるんでしょうか?」


 どうやって調べたんだ……ッ。妃鈴ィ……ッ。

 歯切りしたい気持ちをなんとかおさめようと脚と手に力を入れた。

 そして、どうしても妃鈴の策略から逃れられない事を認識すると、俺は力を抜いた。


「…………もう……やめよう」

「仕方がないですね。いじるの楽しかったのですが……」


 俺は思った。妃鈴は絶対にSだと……。


「で? その女の子がどうかしたのですか?」


 その話は続くのか。まぁ相談にのってくれるのだ。話してもいいだろう。


「その女の子はな、背丈が小6|(でも通りそうなぐらい)の女の子で(ツッコミの切れとか)とてもいい子なんだよ。少し、感情的になるところもあるけど、そこがまたよくて……」


 もちろんリクのことである。


「天童さんってロリコンなのですか?」

「なぜそうなる!?」

「だって誰がどう見ても惚気(のろけ)……」


 ブツブツ言っているので怖かったがとりあえず、時間もないので話を進める。


「義妹として俺の家に来たって話をしただろ?」

「ええ。しましたね。それがなにか?」

「俺の家に女物の服などおいていなくて、どうするか悩んでいるんだ。帰りに何枚か買ってこうとしてもサイズが合わなかったり好みもわからない。一緒に行こうもどういう店がいいのかわからなくてな」

「いつもチャライ人がどこがいいのかわからないって、何言っているんですか。仕方ないですね」

「?」


 妃鈴がソファーから立ちあがる。

 彼女の飲んでいたコーヒーはすでになくなり、コップの中は空だった。

 俺も最後の一口を飲んで、彼女の言葉を待った。


「私は今日、予定はないですし……そうですね。その女の子にも興味があるので私も一緒に行ってもよろしいですか?」


 この言葉に、俺は是非もなしだった。


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