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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第四章 一匹狼
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一の太刀



 鈍痛が貫くと、ボクの口から血が吐き出される。

 無様に飛ばされ、平原を滑りながら血で濡らす。


『リク!!』

「リクちゃん!? く……体が……動けば……ッ!」


 ルナとマナの声を聞きながら、そして意識を刈り取られそうになるのを必死にこらえながら立ち上がる。


「く……やば…………」


 朦朧とする意識を保ちながら何とか立つ。

 フラフラだけど……。


「にしても夏に雪は気持ちいなぁ。…………?」


 彼は周りを見渡す。


「なんだ? なんで雪が解けた水がそこらじゅうに浮かんで……」


 彼は訳が分からずボクを睨みつけてくる。


「おまえ……何した?」


 ボクはそれに答えない。


「ルナ……いける?」


 ボクはお腹を押さえながら、刀を地面に刺して、それを杖代わりとしながらガクガクと震える脚を止める。


『うむ。準備は万端じゃ。くれぐれも失敗はするなよ? 妾も久々の魔力を使うのじゃ。不安定じゃから覚悟しておけ』

「はぁ……はぁ……。わかってる……よ……ルナ……」


 ボクは刀を地面から抜いて、震える脚を意識して止めて、動きやすいように広げる。そして刀を下段に構える。


(ちっ。なにかきやがる。なんだ? このふざけた魔力の量は!! でかすぎる!!)


 歯ギリをしながら、仙道は何かを感じ取ってそれはヤバイと判断する。


「だったら……魔法を使う前に殺るだけだ!! 〈雷迅〉ユニオン〈雷剛拳〉! 〈轟崩拳〉!」


 彼は一瞬でリクに近づき、唸る拳を振るった。

 リクはそれを虚ろな目で茫然と眺めながら一言だけ呟いた。


「――――」

「させるかよ!!」


 その声を仙道は聞き取れなかったが目前にせまっている拳があるため、もはや今、魔法を発動しても無意味だと決めつけて、渾身の一撃を繰り出した。


「リクちゃん!」


 マナの叫び声と桐の勝ち誇った笑み。

 リクの腹部にあたったところで思いもよらない事が起きることも知らず。


「!?」

「え!?」


 その渾身の一撃は空を切ったのだ。

 確かにそこにいて移動しようとした素振りも見せなかった。


「どこ行った!?」


 リクに渾身の一撃を避けるだけの運動能力はないと感じる仙道。

 運動能力ではないとすると――


「魔法か!?」


 時すでに遅し。


「ごめん。切らせてもらったよ。仙道桐さん」

「あ?」


 ――ブシュ


 桐はその場に崩れ落ちた。


「ぐをおおおぉぉぉぉ!!!!」


 彼から血が流れる。傷口は全部で八。手足それぞれに二回ずつ切りつけた。


「いま、何したああぁぁ!!」


 口が減らない桐は唯一動く頭を動かして怒鳴りつける。

 体? とりあえず言われた場所を切っただけだよ。

 おかげで桐は、ピクリとも動かないね。首以外。

 騒がしい彼を無視してマナに近寄る。


「す……すごい……」


 マナは信じられないという目で目の前の景色を見ている。

 そういえばまだルナ、刀のままだった。


「ルナ。戻っていいよ」


 返事はすぐ帰ってきた。


『血を拭いてからでなくては妾は血だらけじゃぞ?』


 それはグロテスクだねぇ……じゃない!


「あ! ごめん」


 刀を上から下にふる。一振りで血が全部飛んで行った。

 念のため、ポケットからハンカチを取り出して、刀身を拭く。これでよし。


「もういいかな?」

『うむ。すまぬな』


 刀が光ってルナの姿に戻る。

 そしてマナのところに着いたので、しゃがんで顔を覗き込んだ。


「大丈夫? マナちゃん」


 心配だったので声をかけるが、

「な、なんとか……それより何、今の? なんにも見えなかったんだけど……。どうしてリクちゃんは今の避けれたの?」


 大事はなさそうだ。

 心の余裕が持てたので質問に答える。


「ボクもよくわからなかったけど……たしか名前が〈鏡花水月〉だっけ?」


 ルナに確認をとる。


「うむ。水と光が無ければつかえぬ。ただ、光といっても特別な光なのじゃが……なんの光じゃったかな?」

「「え~……」」


 ボクもマナもルナを白い目でみる。


「な、なんじゃ! 主まで!? 妾は記憶が少しとんでおるのじゃ!」

「とんでる? 初耳ですが……」


 彼女は一言もそんなこといってない。

 今初めて聞きました。

 契約してから半日ぐらいだけどね。


「妾は基本見た物事全て覚えておる。じゃから記憶を無くすことはおかしいのじゃ」

「うんうん。それで?」


 ルナがちらりとマナを見る。

 その様子から、マナがいては困る話だと納得する。

 そうすると、ルナが近づいてきてボクに耳打ちする。


「おそらく呪いのせいじゃ。妾がその呪いをかけるところをしっかりと見ておったのじゃろう。見ていれば当然呪術の神である妾がすぐに解くことができるからじゃ」


 なるほど。だから覚えていないのか。残念。

 呪いをかけた人、相当の魔法使いだったのだろうか?

 神をも呪うことができて……。


「なに? なに言ったの今。ウチにも教えてよ~」


 聞き取れなかったマナがボクの体を揺する。

 もちろんボクはまだ戦いの傷が癒えているはずもなく――


「いたっ!」

「あ! ごめん……」


 さっきまでの勢いはどうしたのかしょんぼりとしてしまった。


「いいよ。ボクが油断してたばっかりにこうなっただけだから」

「でも……ウチが弱いばっかりに……」

「だから心配しないで! 男がこれくらいでこたえるか」


 ドン、と胸を強くたた――けなかったが軽くたたく。

 ちょっと痛かったけど。


「……はえ?」

「あ、主……?」

「? どうしたの? 二人とも」


 首を傾ける。まずい事言っただろうか……?

 さっきの言葉を脳内で繰り返す。


『だから心配しないで! 男がこれくらいでこたえるか』


 ん? なんか引っかかるような……。


『だから心配しないで! 男がこれくらい……』


 ちょっとまって……。


『心配しないで! 男がこれ……』


 …………。


『男が……』


 いま……ボク……女の子じゃ……なかったっけ?


「………」


 マナはパクパクと口を動かして、声の出せない。

 ルナはというと……。


「り、リク? 男……じゃったのか? スカートをはいておるからからてっきり女じゃと……」


 恐る恐る聞いてくる。

 その答えにボクはアタフタして答える。


「ち、違うよ! お、女の子でも冗談で言うでしょ!? だから今のは冗談なんだってば!」


 もちろんこんなふうに返せばバレバレなのだが動揺している今のリクに冷静でいろという方が無理だ。

 マナはいまだにパクパクと口を動かしていて、ルナはじーっとボクを見ている……というよりボクの左手を見ている?

 ルナの視線を追ってみる。

 そこには見覚えのない指輪がはめてあった。

 控えめに模様が楕円に書かれていて、その楕円の中に赤い宝石(ガーネット)が薄暗く輝いている。

 ボクはそれに見惚れていると。


「リク。その指輪、いつからつけておったのじゃ?」

「え? さぁ? 昨日はつけていなかったけど……」

「リク。その指輪……性転換魔法がかけられてあるぞ?」

「へ? う、嘘だ~」


 な、なんだって!?


「妾は呪術、又は魔術の神なのじゃぞ? 解析ぐらい造作もないわ」


 メチャクチャ信憑性があるんですけど――――――ッッ!!!!


 ということは何? この指輪を外せば男に戻れるってこと!?

 確かめたい……確かめたいけど……!!


「ハハハハ……でもボクこんなの嵌めた覚えないし……」

「じゃあ外して見せて!!」


 マナが気を取り戻し、身を乗り出しながら会話に入ってくる。

 せめてマナがいなかったらボクはこの指輪をなんなく外して、男に戻れるかどうか確かめていただろう。

 ルナはボクの契約した神の断片だからいずれ言わなければいけないだろう。


 しかし、マナがいるとどうだろうか?

 彼女はボクの友達だが、ボクの発する事件に巻き込んでしまうし、なにより嫌われたくない。

 その思いがグルグルと頭の中をめぐる。

 とりあえず、打開策である言葉を使ってみる。


「お、男の子が……女の子になる訳ないじゃん!」

「ここは魔法が自由にいきかう〝ヒスティマ〟だよ?」


 …………失敗です!

 逃げれません!!

 誰か打開策がありませんか!?

 ピンチなんですけど!?

 どうしよ……逆に考えてみる?

 知られると……どうなるか……。

 知られたらどうなるか……。

 絶対、女装変態男のレッテル貼られる。

 それだけは阻止したい。

 ……ちょっと待って……。


 本物の女の子になってるからどうなんだろ……?

 さっきのレッテルよりは絶対に悪化する。

 弄られたり、からかわれたり、着せ替え人形にされたり、写真取られたり……?


 すでに赤砂学園でそんなことばかりされた気が……そのたびに男子だけ沈ませたが……。

 女子にはさすがにやらなかったけど……。


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