揺する
とっさに目を瞑って手で防いだため、そんなにボク自身には影響は無かった。と思ったら左手に熱く痛みが走る。
「……ッ!!」
しばらくして痛みが治まり目を開けるとそこはまださっきいた意識の世界。
左手を見てみるとそこにはなにもなかった。
目の前には、〝ヘカテ〟と名乗った少女がいる。
「あ、あの……いまのは……?」
「? 光のことか? 契約をするときに雰囲気作りで光らせただけだが?」
「雰囲気作り!? いらないでしょ!? けっこう眩しかったんですけど!!」
「ふはははは!! 良いではないか! 少々楽しみたかっただけよ!」
この人(?)ふざけているのではないだろうか……。
そして契約って面白がらせるためにやるものだっけ?
そしてボクはそんなことを聞きたかったわけじゃないけど……まぁいいか。
それはまたあとで怒るとして。
「あの……神〝ヘカテ〟って?」
ボクはとんでもないものと契約してしまったのではないだろうか……?
「うむ。簡単にいえば魔術の神じゃ。魔術以外に呪術という言い方もあるぞ。それと〝ヘカテ〟とは神そのものを示すから妾のことは別の名で呼ぶがよい。神名で呼んで、相手にどんな神かを知られると、対策をされるじゃろうからのぅ」
「別の名前って……ボク知らないけど……」
呪術の事を聞きたかったが二つ同時には喋れないので一つずつ聞く。
「名はそなた……いや、主が決めるとよい。そのくらいの事は主に決めさせよう」
「え? ……そのくらいのことなの?」
「うむ。妾は代々、主らの一族と契約してきたからのぉ」
「そうですか……」
改めて何にしようか……名前。
う~ん。そういえばこの子、髪の毛とか瞳の色って金色なんだよね~……よし!
「じゃあ君の名前は『ルナ』っていうのはどうかな?」
「ルナ……」
目を伏せる少女。
えっと……駄目だったかな?
「なぜ、ルナという名前にしたのだ?」
顔を上げて質問してくる少女。
どうしてそんなふうに聞いてくるのだろうか?
とりあえずボクはそのままの事を口にした。
「髪の毛とか綺麗な金色だし、瞳の色だって綺麗な金色だし。月ってイメージがあるからかな? それにボクって月も好きなんだ」
「なぜ? 夜空にただ浮かんでいるだけではないか」
う~ん。なんでだろ……?
考える。しかしなかなか答えが見つからずに時だけがたっていく。
でない事を見越してか、少女が話す。
「まぁよい。それは各々聞くこととして、妾はルナと名乗ろう」
「うん。じゃあよろしくね。ルナ」
「うむ。よろしく頼むぞ主」
主……かぁ。
「えっと、ボクの事はリクで良いよ」
「しかし……」
「そんな堅苦しいと返ってボクは嫌だもん」
そう言うと、ルナは少し考える素振りをして大きく頷いた。
「ではリク。そろそろ意識の世界から出るとよいぞ? まわりの者達が少々五月蠅くなってきておるからのぅ?」
そっか。ボクはずっと目を閉じて微動だにしないから心配してくれているのかな?
「でも……ここじゃないと面と向かって話せないような……」
「そのことは心配無用じゃ。起きたら妾を召喚すればよい。妾を召喚するための呪文は必要ないでの」
「え? じゃあなんて召喚すれば?」
不思議である。だってそういうのって必要じゃないの?
じゃなければ召喚の仕方がわからない。
「妾の名を呼べばよい。それだけじゃ。妾は神で基本、主と一心同体じゃ」
「え!? それじゃあボクが魔力が無くなったってことはルナの魔力が無くなったってこと?」
ボクはルナに確認するが、ルナはその言葉に対し首を振った。
「それは無い。妾の魔力とリクの魔力は全くもって別物じゃ。妾が人型ならば魔力は分割されておる」
「人型ならば?」
「うむ。妾の近くに、……ほれ」
ルナは近くにあった武器を引き寄せた。
その形は刀。
反りが高く(曲がっているという事)、刀身が銀色に輝いている。
鞘もあって刀の形からするに居合切り、つまり抜刀術がとても速く振れそうだ。こういうのを打刀というらしい。
柄の部分は良くできていて壊れることがなさそうだ。壊れたら困るが。
持つところは金色の布のようなものでしっかりと巻かれていて、持ちやすそうだ。
「これが……? ルナが武器になるってこと?」
「話が早くて助かる。基本、妾は戦わない。妾は緊急時のみじゃ。じゃから、戦うときは妾は刀となり、リクはその刀を使うのじゃ」
なるほど。刀となれば力を引き出せるってことかな?
でもボクは刀を使ったことがない。
いや、使えるかどうかじゃないか。
使いこなせるかどうか……だよね。
「リク。そろそろ起きねば大事になるぞ?」
「? なんで?」
「マナとかいう小娘が主の体を揺さぶっておる。ハンクとかいう男は装置を停止して携帯を取り出そうとしているのではないか?」
へ?
それって……ヤバイ!!
早く起きて安心させないと!!
ボクは集中して意識を海から浮かび上がるような、そんな感覚を味わいながら目覚めた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「大丈夫、すぐ終わるから」
彼女ことリクは私がその場から少し離れると目を閉じた。
ウチはその言葉には信用できなかった。
だって今にも倒れそうなリクは苦しそうにしていて額には汗が流れていた。
――心配
この二文字が浮かぶ。
今日初めてあった人。だけど前にもあったことがあるような気がした。
でも思い出せない。
それにこんなに嫉妬しちゃうほど綺麗で、そのうえとても優しい人で、不思議な、でも心地よい空気を纏っていて、名前が天童リクという人をウチは知らない。
それでもリクは人には迷惑をあまりかけたくない人のような気がした。
だからこそウチは心配。
だってそういう人はたいてい無理をする。
自分ばかり責任を負って、まわりを頼らない人。
むしろ助けていておせっかいって言われてもいい人。
だから思った。
この不思議な空気を纏う人の力になりたい。
なんで思ったのか分からない。昔にもこんな人がいたけど……。
その人は初恋の人。
綺麗な銀色の髪で、蒼色の瞳。優しくて、いつもみんなにからかわれていたけど子供のころだ。
そんなに気に留めなかった。
そしてみんなから好かれていた彼。
家が近所だったからよく遊んだ。
小学校まで一緒だった。
でも中学生になる入学式の前に魔法の力を感じ始め、この桜花魔法学校に入った。
小学から高校までエスカレーター式で、全寮制だから中学以降は知らない。結局、告白はしていないままその 恋は終わってしまった。
名前は……忘れてしまった。
大事な人なのに忘れるなんて……と思ったが忘れなければいけないとも思った。
彼とは住む世界が違うのだ。
住む世界が違っても結婚する人は多数いるが、バレたらその人の自分に関する記憶をすべて消さなければならない。
それだけは嫌。だから忘れるの。
そしてウチは今もどこかでこの世界の事を知らずに生きている事を願っている。
あとから儚い願いということがわかったが……。
にしても目を瞑ってから何分経つのだろうか?
長すぎる。
「あの……ハンクさん……」
「長すぎますね。一度止めます。彼女を起こしてくれませんか?」
「わかりました!」
待っていたかのようにウチは彼女に走り寄った。
肩に触れて揺らしながら声をかけてみるが応答がない。
「リクちゃん! リクちゃん!」
続ける。聞こえてないのか、全くの無反応。
揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する揺する
「……ってマナちゃん!? 揺すりすぎ!! 首がガクンガクンいってる!」
「リクちゃん! 目を覚まして! じゃないともっと速くするよ!」
「それ以上早くしたら首とれるだろ! いますぐ辞めろ! いま保健の先生呼ぶから!」
そう言って携帯を取り出すハンクさんを放っておいて揺すりまくる。
そんな事を繰り返していると不意にリクちゃんの目が開いた。




