金の少女
そこはドーム状の建物の中。
「うわぁ」
驚きの広さ。
野球場ですかと言いたくなるような、それだけの広さがありました。
観客席ぐらいしかないのでもっと広く感じるけど。
「リクちゃん? 大丈夫? なんか呆けてるけど……」
「い、いえ……ちょっと驚いただけです。ここが第一決闘場ですか?」
「うん! そうだよ」
肯定する言葉。
にしても決闘場って、船のマストの上を想像していました。
こんなところにあるわけないか……。だってこの世界、主な人が日本人だもんね。って言うか船のマストの上の方が珍しかな。
そういえば第二決闘場もあるのだろうか?
これだけ(学校が)広かったらありそうだけどね。
「リクちゃん! こっちだよ~」
マナはいつの間にか人が数人いるほうに移動していた。そこから呼ばれたのでそちらに移動する。
「来た来た。ハンクさん。この人が転校生の天童リクちゃん!」
ハンクと呼ばれた男は整備をしていた機材から目を離しこちらを振り返って、お辞儀をする。
「初めまして。私は事務所にいるハンク・ザイハード。二つ名はありません。ハンクと呼び捨てにしてくれてけっこうです」
「わかりましたハンクさん、初めまして。本日転入してきた天童リクと申します。まだ魔法に関しては素人なのでよろしくお願いします」
右手を差し出す。
彼もその意図に気づいたようで同じようにして右手を差し出し、握手を交わした。
彼は正直言って大男だ。
身長は190超えているのではないか?
握手をした手はゴツゴツしていた。
体格もとてもよくて、怪力自慢みたいな感じ。
ガルムといい勝負だと思う。
服装はTシャツにジーンズというシンプルな服だった。
「これはご丁寧に……。マナちゃんも見習わなきゃいけないですね」
意外と言葉づかいは優しかった。なんかめちゃ違和感が感じます。
「ウ、ウチは別にいいもん」
ムスッとするマナ。
赤いツインテールがしょんぼりとしているような気がする。
「あの、単刀直入ですみませんが、ここで何をするんですか?」
ボクは何も聞かされていないまま、第一決闘場に連れてこされたのだ。
つまり現地で聞けということなのだろう。そう考えた。
「ここでリクさん。君の魔力の型が何型か調べるのです。まだわからないようですから」
なるほど。ボクの魔力の型を調べるのか。
型の事、マナに聞いていてよかったと思い、心の中でホッと安堵する。
「ではココの装置にのってください。あとはこちらであなたの魔力に揺さぶりをかけ、魔力を活性化させます。ちなみに一番多い型は装備です。これは人間がラクしようと根っから思っている人は必ずなります。まぁ、道具を使うからとかですね。リクさんは大丈夫そうですが」
え?
そんなふうに魔法の型って決まるの?
「リクちゃん。今のはハンクさんの冗談だから」
そう言ってハンクを見る。
「ではこの装置について説明します」
スルーしたハンクに、マナは少し肩を落としていた。
ハンクのジョークってわかりにくいと思ったボクだった。
説明はたったの数分で終わり、内容はそこまで難しい物じゃない。
まず、この装置の上にのっている人の魔力を活性化させる。
装置の役目はそれだけだった。
あとはボクが魔力をイメージする事によって、発動するんだって。
単純だね。
「では、始めます」
装置のラインが脈を打つ。
――ドックン
それと同時に僕の体全体が反応する。
中にいる〝なにか〟が複数暴れまわり、体を熱くさせたり、冷たくしたり、痺れさせたり……そんな不快な感覚に浸るような感じがした。
なんとか悲鳴は出さなかったが、ボクはその感覚に耐えられなくなりよろつく、しまいには膝まで着いた。
「? どうしたのリクちゃん!!」
異変に気づいたマナが駆け寄ってきて肩を抱く。
「い、いや……大丈夫。安心して。ハンクさん……自分の魔力をイメージするんですよね?」
感覚から逃れるためにハンクに質問する。
その間にも不快な感覚は問答無用で続く。
「あ、ああ。つらいなら一時休憩を……」
気遣ってくれるハンクの言葉を手で制止する。
「い、いえ……けっこうです。このまま続けます。いまなら……何か出来る気がして……」
ほんとは休みたい。
休めるものなら休みたいが、こんな感覚をやるたびに感じていたらこっちがおかしくなってしまう。
だから一回で終わらせる。
「駄目だよリクちゃん!! こんなに体がつらそうなのに!」
「わかりました」
「ハンクさん!? 正気ですか!?」
「その代わり、倒れたら強制的にやめてもらいます」
驚いてアタフタしているマナを置いてきぼりにして冷静な判断をするハンク。
ボクはその言葉にのる。
「うん。それでいいです……。はぁ……はぁ……マナ、ちょっと離れていて」
「でも……」
「大丈夫、すぐ終わるから」
マナは何か言いたげな顔をしていたが、了承したのか、ボクから離れる。
それを見届けてから、ボクは重い体を、足を震わせながら立ち上がる。
いまだ続く不快な感覚に耐えながら、自分のイメージをすると、自然と目は閉じられ、意識の波にのまれた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
目が覚めるような感じのするボク。
そこは海の世界のような気がした。
でも海じゃない。空中に浮いているような感じ。
そしてそこにはたくさんの武具があり、生き物がいた。
しかし、どれも違和感を感じた。
そこにあるのだがすべて僕のモノじゃない。
まるで他人のモノのように感じた。
なるほど……感じるんだ。
自分のモノはこれだと感じるようになっている気がした。
いつの間にか目の前にある、一つの刀と、一人の少女。
『そなたを呼んだのは妾か?』
「……はい? えっと……今……なんて?」
えっと……つまり呼んだのは少女のほうだってこと?
『お、おほん! ……妾を呼んだのはそなたか?』
どうやら間違いらしい。
顔を赤くしてそっぽを向く少女。
髪は金色で、瞳も同じ色のような気がした。(向こうを見ているのではっきりと確認できていない)
服は鈍色で、ワンピースだった。
金髪の彼女に鈍色は合っていないと感じる。
とりあえず最初の質問を無視して、言い直した二回目の言葉に答える。
「えっと……そうなるのかな?」
『なんじゃ。ハッキリせん奴じゃのぉ。……? そなた、顔をよく見せてみろ』
少女はボクの顎を掴み、自分の顔に近づける。……って近すぎだって!
目と鼻の先ですよ!?
もう少し近づけるとふれますよ!? 唇が……。
『ほぅ。ぬしが……』
ボソッと何かを呟いた少女に対しボクは頭の上にハテナマークを乗せる。
『そなたの名を聞こう』
いきなり聞いてきた言葉に冷静に考える。
正直に答えるか、雑賀さんから貰った偽名を答えるか……いや。
決まっているか。
これはおそらく契約のため、聞いてきたのではないか?
ならば答える名前は一つ。
「ボクの名前はリク。赤砂リクって言います」
いまさらだが偽名も名前はリクだから意味無いか……。
『うむ。妾は呪われし魔術の鎖。
――神〝ヘカテ〟代々そなたらの一族を蝕んできた
――汝、妾と契約せんとする者〝リク〟……ここに契約を結ぶ』
「へ、ヘカテ? ……ッ!?」
突如、現れた光によって、視界はすべて閉ざされた。