自由な白銀
「雑賀。【自由な白銀】を知っているか?」
「自由な白銀? 二つ名ですか?」
おそらく今喋っている先生は本気だ。本気の質問を俺にしている。
少し考える。どこかで聞いたことがあるような……。
しかし、出てこない。のどに詰まっている感じだ。
「すみません。わからないです」
「そうかい。ならこれだけ言っとくよ。【自由な白銀】には逆らっちゃいけないよ」
「なぜです? そしてそれは絶対ですか?」
逆らってはいけない。それはどういう意味なのだろうか?
篠桜真陽という雑賀が見てきた、たくさんの魔力保持者のなかで頂点に立つ存在の彼女が逆らってはいけないと言ってきた。
まぁ、雑賀が見てきた中では、だが。
だがそれは異常なことだ。
「逆らったらおそらく、玩具にされるよ?」
「!?」
玩具にされる……。つまり俺を捕縛できるだけの実力があるということだ。
自分で言うのもなんだが俺はそれなりに強いと思う。捕縛するなど、とても容易ではない。
どれだけ恐ろしいんだ……そのフリーダムシルバー。
英名持ちの二つ名なだけはあるか……。
ゴクリ
生唾を飲み干す
「ちなみに言うと今の状況は雑賀は【自由な白銀】と敵対はしていないから安心だけどねぇ」
「わかりました。肝に銘じておきます」
「それじゃあ、またねぇ」
「はい。今度こそ失礼いたしました」
バタン。一人、校長室に残された彼女はおもむろに懐から携帯電話を取り出した。
プルルル プルルル ピ
『もしも~し♪ 真陽ちゃんのアイドル♪ ここに参―』
ピ
切った。
電話の回線を切った。
ちなみに携帯電話の構造は、携帯の中に雷晶。つまり雷の魔力の結晶が入っているため、簡単につながるし、電源が切れる心配がないというとても便利なものだ。
そんな解説をしていると、すぐに電話がかかってきたのでその電話に出る。
『もしも~し♪ 真陽ちゃんから電話してくるなんて珍しいわね♪』
さっきの事がまるで無かったかのような感じで話す幼い声(一二、三歳ぐらい)の少女らしき人物がでる。
しかし、まるで真陽と何年も付き合っているような話し方であった。
「たしかにねぇ。明日は嵐かなぁ?」
『ほんと!? 大変♪ 傘用意しとかなきゃね♪』
「冗談だよぉ。って傘なんかで嵐を突破するつもりかぃ。相変わらずその声から察するに元気百%だねぇ」
『当たり前じゃん♪ なんたって私は元気が最大の取り柄の女の子だもん♪』
確かに一二、三歳の女の子は元気が取り柄になりうる。
しかし真陽はそうは思わなかった。
なぜなら真陽は彼女との付き合いは軽く30年は超えている。
まぁ、子供のころからつるんでいるからなのだが……。
「はいはぃ。いつものはいいからぁ」
『ひどいな~♪ 真陽ちゃんが言えって言ったじゃん♪』
「まぁ、そんなもんかねぇ」
おされる。
いつもこの人と話をするときは必ず主導権をあちら側に持ってかれる。
口げんかで勝ったことが無い。
「今はどこにいるんだいぃ?」
『今? 海がきれいなビーチにいますよ~♪ たくさんの人にナンパされちゃった♪ きゃは♪』
ナンパ? つまりロリコンか……。
真陽は彼女の容姿を知っているのでナンパしてきたやつらはロリコンだ。
ロリコンじゃなくても近寄りそうだが……。
そういう雰囲気を纏った人で、昔から彼女の周りにはたくさんの人が集い、寄り添ってきた。
人望があり、常にリーダーシップをとってきた。
毎日、遊んでばかりだったが仕事はしっかりとこなした。
遊んでばかりだったが……ここ重要。
「……相変わらず遊んでいるんだねぇ……自由な白銀」
真陽は彼女の二つ名で呼ぶ。
つまり本題に入るということだ。
その名を聞くと彼女は少し考え、話す。
『あら? そう言われるってことは何か私に御用なのかな~? 裏方面で♪』
「そろそろ、ジーダスが動くと思ってねぇ」
『ふむふむ♪ それで?』
「君はどうするんだい?」
問いかけ。
しかしその問いかけは簡単な言葉で片付けられた。
『何もしないわ♪』
異常な言葉。
なぜなら組織の一つ。
しかも、裏の世界では有名で何より優秀な人材が揃っている、強大な組織だ。
彼女の組織が行動を無視することは普通はできないはずだ。
簡単で、しかも、一言で片付けられる事が出来るはずがない。
それだけでなく、言った言葉は何をするでもないと言っている。
彼女の実力を持っている事を知っている人から見れば、狂っているとしか思えない発言だ。
『あ~、でも、取り合えず調べてはいるし~、とっても大きな、それこそアレ関連だったら私が出るわ♪ まぁそれ以外は私は何もしないけど♪ いつものように遊んでるも~ん♪』
少女の遊ぶ宣言を聞くと、真陽は「だよねぇ」って呟いた。
「それじゃあ私もそういうことにしようかねぇ。今は面白い人物を見つけもしたんでねぇ」
『? それってだれ~♪』
もはや普通の人の会話ではなく、他人が聞いたら、ひっくり返ってしまうだろう。
さて、会話に入ってきた人物の名は彼女もよく知っている人物だった。
「自由に生きることができない呪われし姫君だよぉ。私より、君の方がよくしっているだろぅ?」
『そっか……。継いでしまったのね……。……でも……』
少女は黙し、やがて遠くを見つめているかのような言葉が返ってきた。
しかし――
『そんなこったろうと思ったわ♪』
すでに明るく元気な少女に戻っていた。
「そんな簡単に片づけていいのか!? 彼が自立をすると死んでしまうぞ!? それを知らない君じゃないはずだ!!」
不審に思い、聞く。
なんたって先ほど言った継承された呪われし姫君は彼女の―
『私の二つ名はなんだと思う?』
思考を阻まれ、考えるのが遅れる。
そして真陽は彼女が何を言いたいのかがわかった。
「まさか……できるのかい!? これまで何度も一族が挑み、解放しようとした呪いが……あんたの【自由】はそこまで!?」
『私を誰だと思っているの? それを知らないあなたじゃないはずよ?』
彼女は私と同じ言葉を返してきた。
『まぁ本当はもうできることは全部終わっちゃったんだけどね♪ ぎりぎり間に合ってよかったわ~♪』
声音はかわらない少女なのだがその言葉には強い……とても強い感情が入っていて、電話越しなのにこちらにまで届くような異質な魔力に身震いした。
『それじゃあね♪ また電話ちょうだい真陽ちゃん♪ バイバ~イ♪』
「え!? ちょ……! ま……っ!?」
プーップーップーと携帯が音を鳴らして通話終了画面に切り替わる。
いきなり切られた。そんなことをされた真陽はというと……。
「相変わらず自由な人なんだねぇ」
それしか言うことが言えなかった。