学校に、女として!?
「だからボクを女の子に……?」
雑賀は話してもいいところをすべて話し。話してはまずいところは言葉を濁してしゃべった。(ジーダスの裏のヒントなど)
そのことにボクは、深くは追求しなかった。
そのほうがお互いにいいと思ったからだ。
そしてさっきの質問。顔をうつむけて言った。
「ああ。だから俺の要望じゃ……」
「確かに要望じゃないけど激しく同意してるじゃないですか!」
雑賀の言葉を途中で切り、怒鳴った。
話を聞く限り、女の子にすることを出した瞬間即答していたと言うことだ。
女の子にすることを思いつくユウもユウだが……。
とにかくおんなじようなものだったので、雑賀の腕を掴み、回し始める。
「いたたた! ちょっとタンマ! 腕折れる! マジで折れる!!」
「大丈夫です♪ 折れても僕に何の問題もありません♪」
笑顔で返す。
その満面の笑みはとても冷たいもので、本来優しくなれるはずの空気になるはずが、まったく別の冷たい空気に支配された。
雑賀は内心ガクガク震えながら腕の突破口を探すが……見当たらない。
腕はリクにガッチリと抑えられ、見事に決まっている。
(どこでこんな高度な技を……ッ!)
雑賀の思っていたことをリクが聞いているとこう答えていただろう。
あの親の元で生まれたらこんなの簡単にできるようになる。と……。
さすがに逃げれないと思ったのか雑賀は声を荒上げた。
「だ、大丈夫ではない! 俺に問題がある!!」
「頭に……ですか?」
「何さらっと酷いこと言ってるの!? リクちゃん!」
「え? ひどい事言いました?」
「まるで気づかなかったとでも言いたそうな目だね!?」
「なんのことですか?」
「あらかさまに目をそむけるな! とにかく離して! このままでは仕事に支障が!」
「それは仕方がないですね……」
少し手にこもる力を緩める。
そして――
「おお……わかってくれたか……いてて。とりあえず腕を離して……」
――力をさっきよりも強くする。
「仕方がないから自然治癒で治るまで仕事は休むしかないですね♪」
「うおおぉぉ! 期待させといてそっちかよ!? いたたた! さっきより強くなっていますよ、リクちゃん!?」
「大きなもの(男に戻ること)を守るときには小さな犠牲(雑賀の腕)はつきものなんです……悲しいことですね……」
嘘らしい演出をするボク。
というよりも言葉の使い方が間違っている気がするが気にしない。
「待て!! とりあえずその大きなものは犠牲がなしでも守ることができるはずだ!!」
「しょうがないですね。話が進みませんし……そろそろやめますか……」
そう言って雑賀の手を離した。
もう少しで三六〇度いったのに……。
まぁ。いつかは三六〇度いきたいと素直に思った。
「まさかここまで凶暴だったとは……。それはそれで口説きがいはあるがな」
腕を押さえながら、ボソッと何かをつぶやいた。
ボクは言葉が聞こえなくて、訳がわからず首をかしげる。
すると部屋のドアが開いた。
ソウナかなとおもってみたけど、どうも違うみたいだ。
「雑賀先輩……って何やっているんですか? そんなところで」
入ってきたのは雑賀の事を先輩と呼ぶ赤髪の男だ。
声質はそんなに低くない。女の人の声には聞こえないけど。
服装はチェック柄のシャツの上に無柄の黒色のジャージ、ズボンはジーンズだ。
第一印象。うん。なんか地味。髪以外。
なんでこの人、服装地味なんだろ? 髪は目立つのに……。髪型は短髪です。
背丈はボクより背が10㎝ほど高い。どっちかというと、男子の中では小さい部類だろう。
元のボクより10㎝ほど高いとしたら155㎝ぐらいということだから。
雰囲気は丁寧で、話しやすい人かもしれない。
そんなふうに人間観察していると――
「いや……。なんでもない。それよりどうしたグレン。何かあったのか?」
「ああ。そうです。ソウナさんがご飯ができたから呼んできてと言われたので来たんです」
「わかった。すぐ行く。リクちゃん。ご飯が終わったらそのまま写真を撮って戸籍を出しに行く。準備はできているか?」
いきなり話を振られた。そういえばさっき写真撮るって言ってたっけ?
そういえば服は……?
今頃気がついたリク。服はパジャマで上下、水玉模様の服だった。
さすがにこの姿で出るわけにもいかず、支度をしている雑賀に聞く。
「雑賀さん。服はどうしたらいいんでしょう?」
「おっと、忘れていたな。ちょっと待ってろ」
ボクを待たせて、自分はクローゼットを開け、その中から一式をとりだす。
その服を見たときボクの目は見開かれただろう。
「あの……この服って……」
さて問題です。
次の衣服から連想される職業はなんでしょう?
・ブレザー(左胸のところになんか桜のマークが……)
・ブラウス
・スカート(膝のちょっと上ぐらい)
・ニーソックス
・ネクタイ(ワンタッチ式)
……と、ここまで言って気づかない人はいないだろう。まさかのテイクツーをやるはめになるとは……。
「俺が仕事中のときはさすがに面倒をみきれないからな。桜花魔法学校に行ってもらう。ちなみに一年生だ。革靴は玄関先に置いてあるからな。着替えたら部屋を出てきてくれ。それまで待っている」
そう言ってグレンと呼ばれた赤髪の人とともに部屋を出て行った。
部屋に残されたボクは……。
「…………ボクが……魔法学院に……? しかも……女として……?」
膝は折れ、手が床につく。
そして現状についていけないボクの頭の中は唖然としたままで、しばらくは動けなかった……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「準備でき……どうしたリクちゃん! なんだか周りの空気が暗いぞ!?」
「……ほっといてください……」
涙目。すぐ前の出来事を知っている人ならば納得できると思うが。
ちなみに目を瞑って着替えようとしたのだが、全く何が何だか分からず、目を開けると、完璧に女の人の体になっていたことにかなり落ち込んだりしていた。
不思議に思った赤髪の少年が雑賀に聞く。
「雑賀先輩また何かしたんですか?」
「いやいや。俺は今、おまえと一緒にいたじゃないか」
「そうでしたね。でも雑賀さんのことだから……」
「いや、俺がした事と言えばリクちゃんの下着を上下フリルのついた水色のリクちゃんによく似合うやつを選んだだけ――ゴフッ」
すかさずボクの拳が雑賀の顎に入った。
赤い髪の人は乾いた声を漏らしているだけだった。
ボクは赤い髪の人を知らなかったので聞いてみた。
「そういえば、その人は誰なんですか?」
「え!? 僕と会っていたじゃないですか!?」
「どこで……?」
首をかしげる。
う~ん、どこかで会ってたかなぁ? 記憶にございません。
しかし相手はどこかで会っていたという。
…………どこで?
回想中。
該当なし。
なんか言いづらいですよね。
あっている人に覚えていないっていうの……。
しかしほんとに覚えていないので言わなければならない。
「えっと……、ほんとにすみません。覚えていなくて……」
「あぁ……。僕っていつも影薄いんですよね……」
あ、座り込んで泣いちゃった。なにかヒントがあればいいのに。
でも現実ではそんなに簡単に出てくるはずもな――
「確かに会っているぞ? リクちゃんの家に突入したうちの一人だぞ?」
出てきちゃったよ!? 簡単に出てきちゃったよ!?
なに! 雑賀って記憶力いいのかなぁ……。これとそれは別問題だと思うけど。
それにしてもあの夜?
思い出す。
確か、雑賀と……ほか二人が窓を割って入ってきたっけ?
…………あ! 思いだした!
ポンと左手に右手を打ち付ける。
一人はガルムって呼ばれてて、もう一人は……グレンって呼ばれてた!
「思い出しました! 確かにいました! 名前はグレンさん……ですよね?」
確認するような言葉に呼ばれた本人は表情がパッと明るくなり、リクの手を両手で包むようにして握る。
そしてBUN.BUN.BUN.BUN.とめちゃくちゃ速く上下に動かしている。
手が痛いです……。
「思い出してくれたの!? ありがとう! あんまり僕のこと覚えていてくれる人って少なくて……。僕は桜花魔法学校の二年武装組なんだ! 学校に行っても気軽に声をかけてください!」
「わ、わかりました……」
気迫に負けました。
でも話し方はとても丁寧で、しかし結構迫力満載な先輩って感じでもないので友達って言う言葉がしっくりく る。悪い人ではなさそうだ。
ところであーまめんと組ってなんだろう?
「何してんだ? 早く行くぞ?」
歩き出す雑賀。
「ちょっと待ってくださいよ~。僕が先行しますって」
慌てて雑賀を追いかけるグレン。
そんな光景を見て、ボクはちょっと騒がしい日常になりそうだなと思っていたのだった。
――余談
写真撮影をするとき、他の服も着てみて写真撮ろうか! と言って、ゴスロリ服やら裸Yシャツやらナース服やらネグリジェなど(どこにあったんだ? そんなの)を出してきたのでカメラマンに、座っていた椅子を投げました。顔面強打。ご苦労様でした。
ちなみにその人の名前はデルタというそうです。雑賀さんの戦友だそうなのでとりあえず……。
遠くへ逝っても元気でいてください。