ボクが……女の子!?
「そういえばソウナさんは? ユウもいないんだけど……」
「そろそろ話しても良いかな。まず、ソウナはある企業、ジーダスを抜けた罪人だ」
「罪人って……企業を抜けただけで!?」
「ジーダスっていう企業はそういう企業だ。一度入ったら二度と抜けてはならない」
「そんな……まるで牢獄じゃないか!」
そんな企業があっていいのですか!?
「しかしちゃんと仕事をすればここは報酬もいいし居心地は最高だ。だから入社希望はたくさんいる。それで、卒業するまで抜けることができないだけだ」
「卒業?」
「ああ。ここは入社して五年ごとに卒業仕事を受けられる。それを受ければこの会社から出ていくことができる。つまり五年ごとに抜けるチャンスがあるということだ」
「へ~。……ってそんなことはどうでもいいです! ソウナさんはどこにいるのですか!?」
「呼んだ? リク君」
「!?」
声の聞こえた方を見る。
そこには丁度お風呂から出てきたらしき青髪の少女、ソウナが髪をタオルで拭きながら歩いてきた。
「よかった……?」
あれ?
雑賀はソウナを捕まえに来たんじゃ……。
「あ~。なんだ。リクちゃんは俺がソウナを捕まえるとか思っているのか?」
「はい。違うのですか?」
「違うわ。彼は違うの」
どういうころだろう?
ソウナは髪をタオルで拭きながらボクの隣に腰をおろす。
「彼、雑賀は私たちをむしろ助けてくれたわ。全て演技だったのよ」
「演技……?」
あれが……?
「リクちゃんの家だけど、俺のつてを使ってジーダスとは関係ない所で直させて貰った」
「あ、ありがとうございます」
家を直してもらったことに感謝すると雑賀は「俺達が壊したし……」と言った。
「演技の事だけど……仕方ないんだよ。どこでジーダスの人員が見ているかもわからないし。俺達の目標は一つ。ソウナの情報が必要だったんだ」
「情報?」
ボクが首を傾げると、雑賀は笑顔で話を変えた。
「ところで、ユウちゃんの事だけど……」
「あ、ユウは!? ユウはどこにいるんですか!?」
雑賀の服の袖を持って訴えるが、ソウナが止める。
「リク君、そんなにあわてなくていいわ」
「(か、かわいい……)ゴホン。ユウちゃんだけどね……。彼女、こちら側の人間だったよ」
こちら側? それってどういう……。
「しばらく会えないと思う」
「ど、どうしてですか!? ユウに会えないって!」
こちら側と関係が……?
天真爛漫なユウに会えない。
母さんはどこかに行っていて、一番身近な家族であるユウがいなくては、家がとても寂しい……。
「ユウちゃんだけどね。彼女、仕事があるからしばらく家に帰れないと言っていた」
「仕事……?」
ユウはまだ中学生なのに……仕事?
雑賀は懐からタバコを一つ出してライターで火をつける。
「何の仕事で、どの組織に所属しているかは知らないが、これだけは言える」
雑賀はまっすぐにボクを捉える。
ソウナは「下で何か作ってくる」と言ってこの部屋には今居ない。
雑賀の言葉にボクはハテナだらけだ。
こちら側……組織……所属……?
一体ボクの周りで何が起こっているんだろう……。
「安心しろ。彼女は……魔力保持者でしかもかなりの熟練者だ。魔力自体も多く……最近知ったような感じでなかったし動きもキレがある。悪いが、俺が軽々と勝てる相手じゃないな。不意打ちでもとらないかぎり」
ユウが……?
それってユウがこのヒスティマって言う世界に関わっていたということ……?
ユウの全てをわかっていたつもりなのに、ボクはむしろユウのうわべだけをわかっていただけだってこと?
どこかの組織に所属していて、今はその仕事に行っていると言うこと……?
とにかく、ユウが安全で何の問題も無いことにホッと胸を撫で下ろした瞬間だった。
ふにゅん、ととても柔らかい音がなったような気がした。
「…………?」
ボクはその音の出所を見るために下を見る。
下がちょっと見ずらい……?
そういえばボクの髪の毛ってこんなに長かったっけ?
部屋の隅に逃げた時の銀色の糸って僕の髪の毛だったのか……。
まって……なんかおかしい。
確かボクの髪は肩のちょっと上ぐらいだから髪が見えるはずがない。
下が見ずらいって……首は痛くないし……。
まるで女の子みたいに胸があるならまだしも……へ……?
嫌な予感がした。
「ん? 今気づいたのか?」
そう言うと雑賀はどこから取り出したのか等身大の鏡をリクの目の前に置いた。
するとそこに映ったのはちょっと呆けた顔だが美少女と言える可愛らしい容姿であった。
目はくっきりとしていて、肌はすべすべで柔らかいし、プニプニしている。髪は銀髪でストレートのロングヘア。
さっきの音は胸を触った音だろう。胸は小さいがしっかりとあるとわかる。
そしてその少女はどこかの誰かとよく似ていて、リクと同じ動き方をした。
……もうここまで来たらどれだけ鈍い人だって気づくだろう。
「な、なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええっっっっ!!!!」
あせるリク。
声はそんなに変わっていないと思うのだが……この姿にたがわぬ可愛らしい声に聞こえた。
頭の中は混乱してちょっとパニック状態におちいる。
「落ち着け! 深呼吸して俺の話を聞け!」
「どうかしたの? 下まで響いてきたのだけど」
スーハースーハー……よし!
扉の方にいるソウナを見てから、ボクはもう一回鏡を見る。しかし変わらない。
鏡には少女が映っていた。ちょっとかわいい……ってボクだよ! これはボクなんだよ! 何考えてるのボク……。
とりあえず雑賀を殴って……。
強く握りこむイメージをすると、なんだか力が湧いてきた。
「ちょ! 何考えてるのリクちゃん!? 理由を話すからその魔力でかなり強化された拳を下ろすんだ!」
「修羅場?」
ソウナはいまいち状況がつかめず、ハテナを浮かべているだけだ。
「まともな理由じゃなかったら何発か殴らせてもらいますから」
「魔法も知らないのにどうやって魔力をそこまで引き出せるんだ……? まず……君を女の子にしたのは俺じゃない」
「じゃあ誰ですか?」
「あぁ。そのことならユウちゃんよ、リク君」
どういうこと? ユウが……?
「君の妹は、俺と約束をしてきた」
「ユウが……どんな約束をしたの?」
「彼女は、自分の代わりに魔法に関する事をすべて教えてほしいと言って、仕事に向かったさ。仕事が無かったら自分で教えたかったとも言っていたな」
「また仕事……」
仕事は絶対に抜けることができないと言うことなのだろうか。
「最後まで聞いてリク君。ユウちゃんはリク君が一人になったら心細いだろうから一緒にいてやってくれって言ったの。リク君は寂しがり屋だからとか、リク君に何かあったら殺すって怖い顔で雑賀に言ってたわ」
思いだしたのか、雑賀は「あれは少し怖かったなぁ」とつぶやいていた。
「そうでなくても雑賀はきっと一緒にいたでしょうけどね。私とリク君を目が覚める間は離さないために。そしてこのヒスティマにいる間は彼が保護者よ。ほら、戸籍」
「雑賀さんが家族……?」
ボクは書類を受け取りながら雑賀を見る。
「今はこの世界で生きろ。しばらく地球に戻れないと思うが、そこは諦めてくれ。わかったな」
いつもより強く言ってきた言葉に反論はできなった。
ボクは渡された書類に目を通した。
書類にはいろいろ書いてあった。
まず名前は天童リク、性別は……女。
「おい待て! その拳を下して!」
気づいていましたか……。
魔力保持者だがまだ性質は分かっていない、と書いてある。
出身小・中学校、赤砂学園。
年齢は同じなようだ。しかし写真が無い。
気になったため聞いてみた。
「写真がないと使えないんじゃないんですか?」
「ん? ああ。写真はご飯を食べた後だ。それからいろいろ話してから行こうと思う」
「いろいろって……。…………? ここの家族構成ってこれでいいんですか?」
紙には天童雑賀が義兄。
天童リクがその妹。ということになっている。実の親が事故で死に、生き残ったリクは近くにいた天童雑賀によって保護され、魔力保持者だったため、雑賀の義妹として生活をしていると書いてある。
正直この人が兄とかいろいろと不安なんですが……。
「俺のことはお兄ちゃんと呼んでくれて構わない」
「わかりました。絶対そう呼びません」
「さすがリクちゃん……ことごとく期待を裏切ってくれる……」
あ! 涙目だ。さすがにかわいそうかな……
「えっと……お、お兄ちゃん落ち込まないで……でいいかな……?」
いつもユウが言っていたのだが、これは予想以上に恥ずかしい。顔が赤くなる。
「!? めちゃくちゃいい!!」
「……リク君はお人好しね……」
あ! 元気になった……。
なんかグッジョブって叫んでるし。
金輪際もう言わないけどね。
「あの、なんで女にしたのかまだ聞いていないのですが……」
「……そろそろご飯だろう? ソウナ、何か作ったのかな?」
「残念、まだよ。そんなに早く終わるはず無いでしょう? 夕食までに命がある事を祈っているわ」
そう言って扉から出て行く。
「な、なんて事を……。ご、ゴホン。じ、じゃあこれからこの街の話でも……」
はぐらかそうと雑賀がするのでこう言ってみる。
「僕って一回目つぶしをしてみたかったんですよ♪」
そういって笑顔でピースを作る。
「わかった……話すから、今すぐ。だからその手を下すんだ」
「初めからそう言っていればいいんです。……雑賀さんの要望だったら腕を360度回転させます。物理的に」
「お、落ち着くんだ。腕は360度は回らないぞ!」
「何言っているんですか? する、しないではありません。させるんです」
「もっともなこと言っているようで、それはとても残酷な事だ!?」
「雑賀さんの要望じゃなきゃいいんです」
「そ、そうだね……」
目をそらす雑賀。
無言で雑賀の腕を曲げはじめる。
「いたたた! ストップ! ストップ! マジでそれは痛いから! せめて真相を話した後にしてくれ!」
「わかりました。プラスで何回か蹴るのでそのつもりで」
手を話すリク。雑賀は腕をぶらぶらとさせている。
まぁ、180度ぐらいは回転させたもんね。
そしてひと時置いた後、雑賀が言葉を発した。
「リクちゃんを逃がすためには女にしなくてはいけなかったんだよ……」
「逃がす?」
「ああ、なぜか本部に銀の髪の少年がソウナの逃走を手伝っていたとバレていてね」
「え? だったらユウは?」
ユウはボクとソウナと一緒にいたはずだ。
どうして……。
「多分一緒にいるところを目撃したのは外にいた時だろう。それも逃げる前」
なるほど……それだったら納得できる。
あそこで自分は男だって叫んだしね……。
「まぁそれで女の子にしたのだが……ユウちゃんが約束をしてきた時と一緒に、ね」
こうして車内にいた時の話を始めた。