例のブツ
「いやいや。手品じゃないよ。これは魔法だって……」
「あははは! そんなのあるわけないじゃないですか! さすがに騙されませんって! 雑賀さんって面白いですね!」
「…………」
「…………」
「…………」
「なんで黙るんですか?」
嫌な予感がする。
雑賀は真剣な眼差しでボクを見つめてくる。
さすがのボクでもなんとなく分かった。
雑賀はどう見てもこういう嘘はつかないように見える。馬鹿だけど。
つまり……、
「……ほんとに魔法で作りだしたんですか?」
「そうだ。さすがに女の子の前で嘘はつかない」
「ボクは男ですって……。それよりも魔法が実在したなんて……」
「まだ気づいていないのか……。その説明は後回しだな」
「気づいてないってなんですか?」
首を傾げる。魔法が実在したことには気づいたのに?
「えっと、これで魔法が実在したことは言ったな。次は……」
「ここには普通の人はいないのですか?」
「ふむ。今のリクちゃん視点ならばその言葉に対してはYesだ。俺視点ならばNoだ。ここにはさっきも言ったとおりに魔力保持者しかいない。それはこの世界には魔力保持者しか入ることができないということだ。例外もあるがな。簡単だろ?」
「へぇ。そうなんですか……?」
そこで気づく。
魔力保持者しかいないとなると……。
「おかしくないですか? ボクは入れてますよ?」
「つまり、リクちゃんは魔力保持者ってことだ」
衝撃的事実。
「……ボクが?」
「気づいていなかったんだな。ま、想定済みさ。最初の質問からな……」
知らなかった……ボクがその魔力保持者だなんて……。
……ボクも剣とか銃とか出せるのかな?
出せるんだったら刀がいいな~♪ だってかっこいいじゃん♪
でも戦ったりするのかなぁ。
それはいやだなぁ。
ボクはちょっとした想像の中にとらわれてしまった。
「リクちゃ~ん。聞こえてますか~?」
雑賀の声で現実に引き返される。
「あ! はい! 聞いてます。……ごめんなさい、嘘です……」
「はぁ。ちゃんと謝れたし、リクちゃんだから許すか。じゃあ初めから話すぞ」
「……お願いします」
「ちょっと上目づかいで言ってごらん?」
「…………」
無言で例のブツ|(時計)を持ち上げる。
一瞬でゴゴゴ……と音が鳴りそうな空間が出来上がった。
「ごめん。もう二度と言わないからおろそうか」
真剣に謝る雑賀。
しょうがなしに時計をおろす。
そして満面の笑顔で、
「雑賀さん♪ 真剣に話しましょうか♪」
「は、はい……」
なんか雑賀さんがとてつもなくしぼんだ。
とりあえず真面目に話してくれるかな?
「えっと、どこからだっけ?」
「ボクが魔力保持者だってところですよ」
「あぁ。そこからか。えっと、なんでリクちゃんが俺を気絶させられたと思う?」
なんで? 確かあの時は……。
「怒っちゃったから……?」
それぐらいしか覚えていないのだが……。
だが雑賀はそれに首を横に振る。
「いや。人は皆、怒ると攻撃パターンが単純になるんだ。だからリクちゃんの攻撃じたいをよけるのはたやすいことだった」
「だったらなぜよけなかったのですか? ……まさかドM!?」
という冗談を言ってみた。
「そんなわけないだろ! 俺はノーマルだ!」
わりと本気で返してくれた。
ちょっと面白いかも。
話が重要なのでここら辺にしておこう。
「よけなかったのは……君に見惚……」
「人の体ってどうなってんだろ? 雑賀さんを解剖してみてもいいですか?」
前の言葉なんか忘れた。
「ごめん。なんかしらないけど謝るから解剖しようとしないで……」
両手を合わせて謝る雑賀。
解剖はちょっとしようと思った……理由は頭の中を見てみたいから。それで十分だった。
ちなみに切るためのものは例のブツ(時計)を解体すればあるだろう。
「話を進めて雑賀さん」
「ああ。だから見惚……」
「人って本気で殴って何回で仮死状態になるんだろう?」
「そんな疑問で俺を殴ろうとしないでほしい。とりあえず最後まで聞いてくれ」
なるほど……つまり話が終わってから殴ってほしいということか。
素手では痛いので例のブツ(時計)を持っていたのだが……。
とりあえず例のブツをおろす。
「よかった……。俺は君の魔力の強さとそのスピードに見惚れていたということだ」
「魔力とスピードに見惚れていた?」
初めからボクに見惚れていたの間に魔力とスピードを入れてたらよかったんじゃないかな……?
「正確には驚いていて動けなかったのだ」
「どうして驚いていたのですか?」
よくわからない。
だって雑賀さんは魔力には少なくともボクよりは何十倍も詳しいし……、いったい何に驚いたのだろう?
「真剣に言おう。リク」
呼び捨てにした雑賀の表情はとても真剣だった。
いつもこんな表情でキザな人じゃなかったらとてももてただろうに……。
などとしょうもないことを考えていたら雑賀が目を細めた。
「君の魔力は多すぎる。おそらく魔力だけならこのヒスティマで上位に入ることが可能だ」
………………は?
「多すぎる?」
「ああ。リクは魔力が多すぎなのだ。……と言ってもいないという訳ではないぞ? 普段から魔力ばかり使うやつは体が自然と魔力をより多くためれるようにしている。あとは魔力は儀式をおこなうことで強くすることができるが……」
「儀式って?」
「例えば一年魔法陣の書かれた部屋ですごす。やっている最中はいっさい外に出てはいけない」
それって、いわゆる引きこもりなるって意味じゃ……。
「他には体に魔法陣を書き数十年一度も消さずに生きるとか……。いろいろあるよ?」
「年数がたてば魔力が上がるみたいな感じでしょうか?」
「いや。何時間、強烈な激痛に耐えればとかあるよ」
「Mには嬉しい儀式ですね」
「たしかに喜ぶやつを見たことがあったな……」
「うわぁ……」
「しかしそれでは儀式にならないから魔力が上がることはない」
まぁ、それで魔力が上がったらシャレにならないね……。
「あとは……人から奪うとかね」
「奪う?」
そんなことができるの……?
「ああ。しかしそれをやると刑で罰せられる」
「奪うってどうやって?」
「…………」
急に雑賀が静かになる少し間をおいてから話した……。
「殺すんだ。魔力を持った人を……」
「!?」
人を……殺す……? そんなやり方が……。
「このやり方は残酷だ。しかしこのやり方が一番楽で時間もかからない。だからこれをしようとする魔力保持者がいる」
「雑賀さんはやったことが……?」
「あるわけないだろ。さっきも言ったとおりにこれをすると罰せられるしなにせ後味が悪い。狂っている奴がよくやるんだ」
そっか……あたりまえか。人を殺すなんて……。
そこでボクはソウナが血だらけで倒れている絵がフラッシュバックした……。