プロローグ9
職業、芸能人。俳優、タレント。所属事務所、西岡entertainerenterprise。芸名、ナツ。本名、竹中 棗。特技、弓道。趣味、漫画雑誌を読む事。好きな事、寝る事。嫌いな事、勉強。芸能界に入った理由、知人との約束と、夢を叶える為。一言PR、よろしくお願いします!
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バラエティ収録後、その後は月9と映画の芝居が2つと、芝居の練習時間が与えられるだけだった。事務所の中にある、防音室の中。深夜なので、やっぱり中には誰にもいない。俺のマネージャーのザキさんも、俺が芝居の練習をする時は目の前にはいない。気を使ってくれているのか、ただ自分の仕事があるだけなのか。どっちかと聞かれれば、まぁどっちもなのだろうが。いつも助かっている。
「『大変ですね。お互い気を付けましょう。……色々と』」
棒読みで自分の役の台詞を読み流していく。どうでもいいから文を読み、覚えろと、そう教わったので、これは昔からの事だ。
「『はぁ、僕が犯人だと、…。そんなのは憶測。机上の空論でしかないですよ』」
サスペンスミステリーの謎の鍵を握る男の役。こういうような役は大抵楽だった。心を込めない部分は、何も思わずに台詞を口にすればいいだけだ。何を考えているか分からないような顔をして、魚みたいな死んでる目を作って。それでも、終盤の見せ場で人間味を出す。ただそれだけ。至って簡単で、単純な役。それよりも難しいのが、恋愛モノだ。どう表現すればいいか分からない。
「『それでは、私はここで。次会うときも、またお元気な顔が拝見出来ると願ってますよ』」
俺と相手役の誤報道が起きた時の2時間SPの恋愛モノだって、その時は相手を壱だと思ってやった。演じてみた。
『お前の泣く顔は見たくない。悲しくなんてさせたくもない。俺は、お前を守りたい』
相手は、泣いて喜んで、それから笑った。
心臓が止まりそうになってしまった。思考が停止する。そこからの台詞がどうやって口から出てきたのかは分からない。最後にカット、と、大きな声が聞こえて、ハッと意識が戻った。
その時思った。
壱は、喜んだだろうか。……喜ぶ? 喜ぶ筈がない。相手はどうだ、女だ。そりゃそうだ。自分が好きだと言った男からそんな事言われれば、それは嬉しいだろう。でもそれなら、俺がやっていた事は間違いだった。
壱は男で、女じゃない。
嬉しい筈もない。喜ぶ筈もない。
「…高居、コートに入っている携帯が鳴る。携帯画面の着信先を見て、嬉しそうに……」
恋愛モノは苦手で、やりづらい。それでも仕事は仕事で、ザキさんの話しをオーケーしてしまったが、実際のところ、俺はどうすればいいんだろうか。承諾してしまった以上、仕事事態がボツにならない限りは、やるしかない。
女の恋愛は知らない。俺は実際壱との間でしか恋と言うモノを知っていなくて。
芝居で悩んでいる中。
「ナァーツーっ!」
女の声。
俺の芸名を付けたやつが、防音室の部屋の扉を乱暴に開けた。