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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
秋、帰国~
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決戦日5

 口いっぱいに入れたフライドチキンを逃さんと、両手で口を塞ぐ。何とか頑張って飲み込んだものの、器官に入り込んだのか嗚咽と咳が止まらない。数人がなんだなんだとその騒がしさにこちらを向くが止まらない。何だか居たたまれなくなって、こちらを向いた人達にすみませんすみませんと頭を下げながら、屈む明の背中をさすった。

 そんなこんなしていても、女の子はズカズカとこちらへ向かってくる。何とも可愛い睨み方だ。漫画のようにぷくっと右頬だけを膨らませ、気迫のない睨みを利かせて。

 トップスは二の腕が丁度隠れるくらいの白いシフォン生地、下は淡いピンクのラメレースのスカート。腰付近にある大きなリボンは、彼女のあるべき可愛さを最大限に演出している。そんなキュートな格好で睨まれても、キュートにしかならないよ。

 そんな事を、明の背中をさすりながら思った。

 大概、俺もフェミニストだなあ。

「明! 久しぶりだね!」

 懐かしむ声色では無かった。声の棘がすごい。

 屈んだ明の目の前に止まった叶ちゃん。すぐ面前にある叶ちゃんの姿を見て、明はより顔を顰め、目尻に溜まった涙をポロリと流した。なんと綺麗な涙だ。

「市川先生も! お久しぶりです!」

 彼女に取って、俺は恋敵なんだろうに、律儀に挨拶をしてくれるのがより可愛らしいな。

「お久しぶりです。放送されたドラマ、動画で見ました。僕が思い描いてる通りの役でした。一度お礼を言いたかったんです。ありがとう」

 複雑なあれやそれはさておき、是非会って言いたかった言葉を紡ぐ。彼女はきょとんとしながら、会釈した俺に合わせて一緒に会釈をしてくれた。

「こ、こちらこそ! ドラマの撮影楽しかったです! 小説も読みました! すごくすごく素晴らしかったです!」

 キラキラした目でそんなこと言われると、胸が嬉しさでキュッと締め付けられる感じがする。

 きっと俺に言おう言おう言ってやろうと思って考えた悪態も忘れてしまった事だろう。そんな素直で良い子なのに、明が毛嫌いしてしまう理由は今の所思いつかない。

 少しして落ち着いてきた明の背中から手を離した。

「明、もう大丈夫だろ」

「ニホンゴワカンナイ」

「子供かよ」

「こんな大きな子供って、私嫌かも」

「そうだなあ、じゃあ犬って思えば……」

「あ〜。犬ならまあ」

「え、何々。2対1なわけ!?」

 こぼれた涙はそのままに、若干振りかぶりながらそんな事を言うものだから、苛めすぎたと反省した。

「市川先生って楽しい人なんだね、もっと話したいんだけどな……。ナツとは友達なんでしょう? また会えますか?」

「……ああ、うん。そうだね、またゆっくり話そう」

「うん、イロイロ、話したいです」

 イロイロとは何か、大体察しがついてどっとする。もし本当に話をする機会があれば、誤解を解くことに専念してみよう。

「今日のところはとりあえず……。市川先生、今日はこの後何か予定はあるんですか?」

「予定? は、特に無いけど……?」

「じゃあ、明借りても良いですか。乱暴はしませんから!」

 ……乱暴?

 ストーカー気質はあると明から聞いていたが、DV気質まで兼ね備えているハイブリッドな子なのだろうか、この子が。

 明を見てみると、見捨てないでと言うような顔でこちらを見ている。

 大型犬だな。

 なんだかその顔が妙に守ってやりたくなるような愛らしい顔だったので。

「大丈夫だよ、後は俺一人で、全然、大丈夫だから」

「ありがとうございます! じゃあ明、行こうか」

「う、裏切り者! この、裏切り者〜」

 叶ちゃんに袖を引っ張られながら、大の男なら簡単に振り払えそうな手引きを剥がそうとはしない。ただ本物の恨みの顔を浮かべながら、扉が開き会場から姿を消すまで、明は俺にそう言っていた。

 2人分の質量が無くなった会場。

 見渡すと、そこに棗の姿はない。

 変わりに目に入ったのは。

「初めまして、市川先生」

「……あ、はい。初めまして…? 」

「私、藤原牧のマネージャーの鮫島と申します」

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