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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
秋、帰国~
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決戦日4

「あ、……っあ、も…、いま、だめって言っ…んぅ」

「あ? 駄目じゃねえだろ。つうか良いの間違いだろ」

 仕事終わり。いつも通りの定時帰り。ちょうど鳴った着信に出て、もう家に帰っていると言うことで、いつものコンビニで買ったいつもの缶ビールを片手に玄関の扉を開いた瞬間にこれだ。

「駄目」と言うのは1週間前から言い続けていたことだ。何年も何年も待ち焦がれていたその日がすぐ目の前にある。甘い空気なんて邪魔にしか感じない。

早くても、明日にならないと。

「ね、っもう、ほんとやめて……っん〜! あ、した! あしたー!」

「遅えわ。明日まで待つのは俺の下半身事情が許さねえわ」

 彼の性格は良く知っている。最近は特に高校時代を振り返ることも良くあるが、それに比べると例えると「剣山」でしか無かった性格は「針」くらいにはトゲトゲしさも薄くなった。あの頃ならば実質1週間の禁欲生活にも耐えきれず2日後にはブチ切れてたのだろうと思う。

 ただ今でも1週間が限度だと言うことだ。なんと小さい人間だ。

 ソファの上で組み敷かれながら、あーもうだめかあ、全然気持ち入らない……。なんて思ってると、体を這う手が止まった。

「らーん」

 耳元で優しい声が響く。こんな柔らかな表現もできるようになったのだ、時間は立ち行く。

「そんなに気負う事あるかよ」

「あるよだって……!」

「違うだろ、もう無えよ」

 おれの声に被さる、優しく諭す声。何だか気が抜けていく。

「お前があの小説を読んだ時、俺もあいつもびっくりしたんだぜ? まじ顔面蒼白でさ、ついにこの世の終わりかと思ったら『壱だ!』って急に大声で」

「俺そんなに変だった?」

「そりゃあな。だけどそのお陰でダラダラしてた柴田が動いたろ。結果として棗とかいうあの芸能人がそのドラマをやることになって、最終的には有沢と再会した。お前が気にかけてやるのはそこまでだ。それからはあいつら2人の問題で、お前が首を突っ込む事は無いだろうが」

何て現実的且つ客観的な言葉だろう。なんとなく胸が痛いが真実だ。

「だからヤらせろ。お前が首突っ込むと俺にも色々と関わって来るんだよ」

「しずかぁ、俺の親友のハッピーエンドと自分の性欲どっちが大事なんだよ……」

「あ? 性欲」

 だよな、これはずっと変わらない。いつでもどこでもからは欲に従順なのだ。

「この性欲魔獣……」

「よーし、絶対犯す」

 午後19時。日は傾いた。作家先生へ向けたお便りを、あの人は必ず送り届けてくれるだろう、疑いはない。

 静の言う通り、あとは時の流れに身をまかせるだけ。何もできる事は無い。

 そう思って、俺に覆い被さる静の体を抱きしめた。



 煌めくシャンデリアの中。並べられるこれでもかと磨かれたワイングラスは傷一つなく、中身が例え水だとしても遮るものなく綺麗な灯りを反射して静かに揺れる。

 いつどんな角度からみたとしても、この広い会場はどこもかしこもブラボーと盛大な拍手をしたくなるような盛り付けをされた食事ばかり。

 それを食すのはドラマ出演者、制作スタッフ、それから業界人のお偉い方々だ。

「センセ! センセ! これめっちゃ美味い! おいしぃ!」

 それから俺の専属マネージャー様も忘れないでおこう。

 暴飲暴食は体に毒だぞと注意しつつ、向こう遠く、人混みを掻き分けた先に居る棗を見る。

 グラス片手にスタッフと戯れた顔で談笑し、かと思えばマネージャーに袖を引かれて高そうなスーツを着たお偉い方とも穏やかな顔で話をする。そんなにコロコロ表情が変わるようになったのはいつ頃何だろうか。

 ホテルに入り、打ち合わせの為に用意された控え室にて拍子抜けしたのは俺の方だった。

「久しぶりだな」

 同級生と久々の再会を喜んでいました。さもそんな顔でそんな事を言うもんだから、口を開けてあんぐりとした。緊張しながら向かってた俺には鳩に豆鉄砲だ。

 軽く話かけられる事はあれど、何もない。

 同じ高校、同級生、友達。

 それ以外の雰囲気を醸し出さない所作。ただ背格好は棗と変わらないから、本物だと再確認した。

 あれよあれよと打ち合わせは終わり、時間丁度、盛大なミュージックと監督の乾杯の合図と共に打ち上げがスタートした。

 飲んで食べて話をして、別に用意されたインタビュー部屋では、1週間後に放送される最終回に向けての特別ドキュメンタリーが6日後に組まれるらしく、その一貫としてのインタビューに数人ずつ呼ばれるらしい。俺もその一人と言うのだから面白い。

 順番待ちをしながら、棗に視線を向けるのをやめ、あたりを見渡した。

 打ち明げが始まってから30分は経つ。

 編集部やスタッフ達にアレヨアレヨと初対面の人物を紹介され、その度に増える名刺は10を超えている。

「……あ」

 目まぐるしい人の変わり。たった30分の中で目が回りきった俺は、落ち着いた頃を見計らってお腹が空いたのとしてもいない場の雰囲気に緊張したと言う理由でその場から離れた。

 暴飲暴食を繰り返す明の隣でできるだけ粛々と並べられる料理を食べながら見渡した先でふと合った視線。丁度インタビュー室から出て来た彼女は、そのままズカズカとこちらへ歩いてくる。

「明、叶ちゃんが来た」

「ブゥフっっ!!!」

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