決戦日1
日差しがうるさいと感じるのは久々だった。
いつも大体同じ時間に起き、同じ時間にご飯を食べ、同じ時間帯に活動を開始する。そんな気持ち悪い程完璧主義に育った俺には、太陽が煩わしいなんて感じることも一切ないと思ってた。
が、それは間違いだったようだ。
人間、住む環境が違えばそれなりに心境や体調の変化があるらしく、俺は露骨に眉を顰めて日の死角にある影に隠れた。昨日の片付け時にカーテンなんぞ持ってきていないことに気づき、そのまま寝たのが運の尽きだ。
一体どれほど寝ていたんだろう。確か最後に記憶がある時は夕日が傾き、街灯がつき始めた時かもしれない。寝すぎだろ。
考えることさえできない気怠らさにだんだんイラついて目が覚めてくる。
「……ち〜」
すこし遠くで声がする。
「…いーちー……」
さらにイラつくような清々しい声が聞こえる。
あと数秒でしっかりと目覚めなければならないのだなと、心の中でそっと理解し、腹を決める。
「いーちーいーちー」
人の名前を面白おかしいリズムで刻む声が近づき、コーラスを奏でるようにガチャリと自分が寝ている部屋の扉が開く。
「なあ〜。起きないのかあ?」
声が近い。うるさい。
「今何時だと思う? 12時だよ〜」
クイズする意味あるの、それ。
「俺が考えることは一つだけ。なんだと思う?」
そんな簡単なことお前と3日暮らしてれば誰だって答えられるさ。
3、2、1と声の主がカウントダウンを始めたので、俺は合わせるように口を開いた。
「「はらへった」」
ふふんと笑う声がしたので、ゆっくりと目を開く。
「あたり」
俺を見下ろすように足を組み頬杖をついてふわっと笑っている明の顔に水を吹きかけてやりたい。
「……カーテン買いにいきたい…」
本人に向けて本音を言うとうるさいの繰り返しになるため、俺は合理的に言葉を返したのだった。
*
「日本で食べる天ぷらってほんと美味しいよね。本場って感じがして俺好き」
「寝起きにそれ食べるのって朝食にピザ食べてるのと変わらないと思うけど」
午後13時。
携帯で家の近くにある日本料理専門の格安チェーン店を見つけ、その近くに家具屋もあることも確認し、俺は明と2人でご飯を食べていた。
天丼と暖かいそばのセットに、山菜そば。
懐かしい出汁の匂いが日本人としての遺伝子を沸々とさせる。
穏やかな午後だ。
「今日のご予定は?」
マネージャーとは思えないスケジュール把握のない言葉はいつも通りだ。
「カーテン買いに行って、荷物解いて、18時にシャークシープリンスホテル着、すぐに打ち合わせ、19時から打ち上げ」
「俺いらないほどのスケジュール管理だね、壱」
「お前が言うな」
蕎麦をすすりながら、そう長くは続かないだろうこのゆったりと流れる穏やかに時間に浸る。リミットはあと5時間だ。
その前に、と、俺は進む箸の動きを一度止めた。
「明、マネージャー兼SPのお前に話しときたい事があったんだ」
「なに?」
俺と近しいお前に、きっと、絶対に降りかかるであろう受難について。
「棗、覚えてるか?」
「……ナツ?」
「そう」
「お前のチョメチョメ相手か?」
「チョっ……、まあ、そんな感じ、それ。今日顔合わせるだろ、全部喋っとこうと思ってよ」
「うん、話してくれるなら話して」
真面目な話しを察知して真面目に聞いてくれるところが、明との親交を止まらせたくないとおもう絶対的な長所だ。色々ムカつくことが絶えないが、良い人間と言うのは得てしてそのようなものなのか。
わからないがわからないまま、俺はゆっくりと口を開いた。
周りに露骨に悟られないように、ゆっくりと言葉を選び、棗との関係を明に伝えた。
簡潔に、高校時代の必要なあらすじを。
出会い、感情、エピローグ。
明は目の前にあるご飯を咀嚼しながら、話を遮ることもなく黙って聞いていた。
あまり人に話さない、話せないあの物語。
「と、そういうわけだ」
あらかた話を終えた時には、双方の丼には生温くなったそばの残り汁が残るだけ。




