表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
56/74

見知らぬ穴 4

 まるで戦争でもみているようだと、誰かが呟いている気がした。

「んっ……む」

 息を吐く隙間から入り込んだ俺の舌を追い出そうと、対抗を示す壱の唇から声が漏れる。構わずにもっと、もっとと深くまで舌は口の中に食べられていく。

 コーヒーの苦い味と、懐かしい暖かさ。それを感じた頭がフワフワした瞬間に、ガリッと言うような音が聞こえた。

 血の味がする。

 どんどんと広がって、壱と俺の唇に充満していく。どっちの血だ。いや、どっちでも良い。そんなことを無視してなお、戦争は続く。その最中に、段々と舌にピリピリする痛みを感じて、あぁ、俺の血だ、と思った。

 ずっとこのままキスしていても別段構わなかったが、いい加減俺の下に敷かれるコイツが辛そうだったので、ゆっくりとその唇を舐めながら顔を離した。

「マズイ」

「もう一回……てか?」

「……? どこのギャグだそりゃ」

「うるせー」

 戦争? みたいなキスしてやったのに第一声が『マズイ』なんて言うやつに、ため息が漏れる。もしかしてアメリカでは日常茶飯事にこんなことやってんのか? なんて疑問が出てきそうな程、あっけらかんと俺を見る。

「気は済んだか」

「いや、全然?」

「Are you serious?」

 すぐ顔目の前で、苦い顔をした壱が俺の分からん英語を円滑に喋る。発音が良い以前に、俺は最後の単語の意味さえ分からないので、とりあえず適当に頷いてみる。

「……イエス?」

「適当に言ってんじゃねーよ」

「英語はわからん」

「じゃあいいよ、離せ」

「嫌だよ、断る。」

 その返答にさっきよりもっと苦い顔になっていく壱を見て、深くにも笑みが零れた。

「何笑ってんだテメー」

「あ? いや、可愛いなと思って」

 そんなことを、俺が平然と言ってのける。

「は? え、何。お前、なんなの」

「なにが」

 苦い顔がいっぺん、目を思いっきりまん丸く開いて、その目にはっきりと俺の顔が映る。

 そこで俺は気がついた。

 まるでそこに女がいるかのような態度で、さも当然のように。だけど相手は男。そんな状況で、『可愛い』なんて言ってしまった。

 壱を組み敷いた時にぐるぐるに巻きつけた気は、いとも簡単に解けてしまったみたいだ。

「ぶあっははは!」

 笑いが止まらない。

「な、なんだよ!? 狂ったか?」

「んなわけねぇだろ、はは」

 駄目だ、やっぱり。

 いくら役に入り込んだとしても。

 平然とした態度を繕ったとしても。

「壱お前、ほんとに諦めた方が良い」

「???」

「好きだ」

 俺はコイツが好きだなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ