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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
54/74

見知らぬ穴 2

紅もみじさんが書いてくれました!

仲良かった(?)時期が懐かしいです。

この2人はいつ頃またこんな風に仲良くなってくれるんでしょうか・・・。


紅もみじさん!

ありがとうございました!


挿絵(By みてみん)

「それで……お前、さっきのアレなんだ」

「アレ?」

 ピンと来る事は、すぐには連想されなかった。また何かを渋ったような顔をして、俺の顔をちらっとみてまたすぐ逸らす。

「……転校云々だよ。俺がした後すぐって」

「あぁ、あれな」

 それは知らないわけだろう。だって、その時にはもうすでにこいつは俺の隣にいなかったのだから。

「薺から芸能事務所に入れって言われたのは、知っているよな」

 俺にフラれ、俺の父親をクビにした昔の薺。そんな事態が壱に降りかかったのでは無いかと、俺はあの時薺にそう聞いた。しかし本人は、自分は何をしたわけでもなく、決めたのは壱本人だと、私は棗君が芸能人になる人だと、それしか言っていないとそう言った。

「あぁ……」

 でも、薺が壱に言った言葉がそれだけでは無い事も薄々は気付いているが。

「転校手続きをしたのはあいつ。もっかい言うが、俺は誰かさんを見つける為に必死だったわけだ。切羽詰まった状態で『早くしろ』なんて言っちゃったもんで、2日後にはもう転校して芸能科のある高校に入った」

「すげぇな。……まだ高校生だっただろ、あの時」

 薺に関心しねぇで俺に関心しろ。

 なんて思って、続ける。

「あいつの親も親なんだよ。あいつが何か言えば全て揃う。別に親バカとかそういう類のもんじゃねぇ事も分かってる。アレは頭が良すぎんだ。親の信頼も、親の扱いも完璧すぎる」

「まだ若いのに、すげぇな」

 だから薺に関心しねぇで以下略。

「まぁいい。こんな時にまであいつの話しはいらねぇだろ。お前、いつこっち戻って来るんだ」

「? 今日本に戻ってきてるだろ」

「明日明後日には帰るんだろうが。本当の帰国だ。こっちで家を取って、こっちで生活して仕事するのはいつかって聞いてんだ」

「……そんなの、知らねぇ」

「お前、俺から逃げられると思ってんのか?」

 その言葉に、壱はギクリと目を開いた。それから怯えたような、警戒でもするように目を顰めながら、こちらを凝視する。

「もう見つけた。だからもう観念しろ。鬼ごっこは終わりにしようぜ」

「だから、俺はもう。お前の事好きじゃねぇって、」

「なんだそれ、過去形って。じゃああれだろ、お前、昔は俺の事好きだったのか。俺にとっちゃ、それだって初耳だけどな」

 お前は俺の告白の返答もせずにアメリカに行ったのだから。

 その返答を聞きたいのであれば、俺を見つけてみろと、だからお前はあの時空港で――。

「見つけて『好き』って言わそうと思ってたのに、過去形か」

 そんで俺が考える、壱に対する1つの事。

「お前、残酷な」

「なつっ……」

 壱が何か言いたげに声を上げたが、俺はそれに無視してマシンガンのようにトークを続ける。

「俺は必死でお前を探したんだ。その為に芸能界にも入って視野も広げた。あれから何年経って、俺は何年お前を想ってたと思う。そんでいよいよ再会したと思ったら、もう好きじゃない? 好きだった女がいた? あの時の、さよならじゃないってのは何だったんだ。なぁ、壱お前――」

 なんでそうしてまで俺から逃げる。

 それが、俺が疑問に思うコイツに対しての全て。

「……なつめ」

「お前も俺も男だからとか、そんなこたぁガキの頃から分かってんだよ。アメリカに行ってそんな事チンタラ考えてたんだろお前。俺を好きになって後悔したのか、忘れたい思い出か」

「違う! それはお前が……」

「あんな文みてたら、お前がそう思ってんだって考えるのが普通だろうが!」

 何が少しの後悔だ。

 何が不正解だ。

「俺はてめぇとの過去を後悔なんて思った事、一度もねぇんだよっ!」

 俺の大声に、少しだけコーヒーの水面が揺れた気がした。それだけではない、壱の瞳も揺れた気がした。絶句したように、俺を見つめる。

 俺が思ったこと全て、お前はどう受け止める。

「後悔、…してねぇのか」

「今更またそれか。あのな、後悔してるんなら、お前を見つけることももう止めてる。今お前と向き合ってガキみたいに怒鳴ることも無ぇだろうが」

 心臓が痛い。大声を出したからじゃない、胸の内を明かしたからでもない。

「残酷って思う俺を、なんで好きって言えるんだ。お前の数年を奪ったんだぞ。その癖再会したらあっさり好きじゃないって言った俺を、なんで好きって思う」

 そんな簡単な質問か。

「決まってんだろーが」

「は?」

「お前が思ってる以上に、俺がお前のことを好きってだけの話しだ」

 その残酷さも全て含めて。

「言っとくが、俺は昔よりお前の事が好きだぞ。見くびんじゃねぇぞ」

 きっと、壱が芸能界を止めろと言われればすぐに止めてしまうだろう。死ねと言われれば、すぐに死んでしまうだろう。誰かを殺せと言われれば、速攻殺してしまうんだろう。

 そう思って、先ほどから温くなってしまったコーヒーを、俺と壱の2杯を飲み干す。

「話しは終わりだ」

「……じゃあ、」

 帰れとでも、言うつもりだろうか。

 でも、俺はもうそこで引き下がるような人間では無い。

「あぁ、話しは、終わりだ」

「?」

 残酷と言うのなら、俺も同じだろうか。

「壱。俺もお前も、もう大人だ。話して済む話しならそれで終わりで良い。でも、俺たちはそれで済む関係じゃねぇだろ。とっくの昔に」

 壱の目が、変わる。

 色を失った目で、俺を見る。

「服。脱がされたくなきゃ、自分で脱げよ」

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