表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
51/74

Hey,my dear *** 3

 完全ではないけれど、80度くらい開かれた扉の見て、俺は絶句してしまった。

「あれ? ……さっき会見にいた…」

 市川先生事、壱とは大きく違うその顔や体格。さっき、壱と親しそうに戻っていったあの男だ。

 どうしてこいつが、壱の部屋にいるんだ。

「私は、ナツのマネージャーをさせてもらっている、山崎、と言うものです」

 少々戸惑ったザキさんは、スーツの胸ポケットから自らの名刺を丁寧に差し出した。それを片手で軽々と受け取ったそいつが、まじまじとその名刺を眺める。

「…失礼ですが、あなたは?」

「……」

 男はザキさんの言葉に何かを考えるように数秒間固まり、何かに気がついたように「あぁ!」と声を荒げた。ここが高級なホテルでなく、ドアが薄い物であったならば、間違いなく苦情が飛んでくるだろう。

「俺、市川先生のマネージャーの兵藤と言います」

「ま…まねーじゃー?」

「はい。マネージャーです。あ、すいません。俺名刺とか持ってなくて……」

 名刺も無く、敬語もままならない。……鮫島よりも酷いぞ。

 そんなことを考えながら、ふっと、『さっきも確かいたなー』とか、余計な事が片隅によぎった。

「えとー、どんな要件で……?」

「すみません、そうでしたね。ここに居るナツが、市川先生と同級生でして、お話がしたいと」

「あー! 言ってましたね、言ってました! どーぞどーぞ、お入りください」

 またも絶句。

 コイツのこの軽さはなんなんだ。

「は、へ……いいんですか? 市川先生に許可とかわ……」

 多分、ザキさんも俺と同じ事を考えているのだろう。同じマネージャーを名乗っている分、俺よりもザキさんの方がずっと複雑だろうな。

「この後何も予定無いんで、大丈夫です。それに、明日から打ち合わせ打ち合わせで、帰るのは明後日だったかな? 今以外会える時間もないし、いいっすよ」

 まぁでも。それでも。今の俺には、こいつの軽さが物凄くありがたい道だった。なんせ、逃げようもんなら犯す。なんて数分前に堂々と思っていたくらいだし。

『断る』なんていう、まるで門前払いのような逃げ道が絶たれただけでも救いだ。

「ザキさん、俺多分長くここに居ると思うから、付き合わなくて大丈夫だよ」

「え? でもお前……」

「すっげー久しぶりだし、男同士長話しになるだろーから」

「そっか、分かった。あんまりハメ外さないように。明日は10時から浅羽眼鏡店のCM。いいな?」

「了解」

 俺の返事を聞いたザキさんは、兵藤とか言う壱のマネージャーに一礼してその場を去って行ってしまった。何故だかしらないが、ザキさんの背中が見えなくなるまで、ソイツと2人で廊下を眺めていた。いなくなってから、バッチリと目が合う。

「……どうぞ?」

 ドアをさっきよりも少しだけ開いて、部屋の中に俺を招く。

「ども…」

 それに何となくお礼を言いながら、すーっと溶け込むようにその部屋の中へと入って行った。

 入って一番最初に見えたのは、まぁさぞ高級なのであろう花の入った花瓶とか、額縁。そこで改めて認識し直した事といえば、壱が大層大事な作家さんだと大切に扱われている事。

 こんな高級なとこ、ベテランでも無い奴がそうそう泊まれるわけもない。

 長い廊下を抜けて、明るく広い部屋へと出る。

 壱はいない。

「あれ? いちー。どこいったー?」

 その『いち』が指すものが、市川先生の『市』なのか、はたまた『壱』なのかは明白だが……。

――こいつ…マネージャーの癖になんでそんな親しそうに話てんだ。

「あ、ごめん。コーヒー入れてる。明、すげーぞここ。小さいけどキッチンみたいなとこある」

 どっかの部屋から、そんなのんきな壱の声がする。

『明』? 『壱』? こいつら、下の名前で呼ぶほど、なんでそんな親しいんだ?

 沸々と湧き上がる怒りや疑問が入り混じって、自然と手に力が入る。無意識に拳となった手が、微かに震える。

「壱、お客さん」

「客? 誰?」

 かちゃっと開いた扉から、にょきっと壱の頭が飛び出て来た。

「へっ……、――っヒ!」

 ほけっとした顔が、俺を認識した瞬間に、ゲテモノでも見たかのような顔に変わった。

「なんで、……お前っ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ