表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
40/74

無知の自覚 4

『俺が絶対見つけるから、お前のこと。死んでも見つける』

『死んだら意味ないじゃん』

『死なないように頑張る』

 あの日の、あの時。空港で別れ際に話した言葉の数々が、俺の目の前に降り注いだ。死んでも見つけると言ったそいつ。俺は勿論それを信じてはいなかったし、だからこの本をこいつに送ったつもりだったのに。それなのに。

 こいつは、立派に目的を果たしやがった。

『行って来い』

 自信満々に俺を見送ったそいつは、本当に俺を見つけてしまった。……いや、ほとんど俺から見つかりにいったものかもしれないけれど。

 それでも――。

「おい、出てこい」

 あの日より数段大人の顔つきになったそいつの顔を、あまりじっくりと見る事も出来なかった。持ち前の運動神経と言うのか、反射神経を惜しみなく使った俺は、棗を認識した瞬間にトイレの一室へと逃げ込んでしまったから。

「壱」

 なんで、なんでこいつ、こんなに冷静で居られんだよっ……?

 仕方ないとしていた心臓は、一瞬止まって、それからバクバクと鳴り止まない。なんだ、この嬉しくない再会は。

「何逃げてんだ。久しぶりに会ったんだぞ」

 俺は会うつもりなんてなかった。

 なのになんで。

「なんで、……ここにいんだよ」

「は? ……あぁ、」

 棗の言葉に、少しばかりの沈黙が訪れた。

 それから何かを言おうとして、息を吸う音が聞こえた。

「お前、市川有紗だろ」

 心臓が、ドクドク。

 それからまた、なんで? なんて思う。出版されてからまだ数年も、数十年も経っていない筈なのに。なんでこんなすぐに……いや、てか、え?

「あの本、読んだのか?」

「いや、全部は読んでねぇ。ドラマ資料と、脚本の1話から5話まで。あとは……」

 あとは、と言おうとした棗の言葉が止まる。トイレの壁一枚隔てた向こう側にいる棗の顔も、よく止まる会話の意図も分からない。

「あと、…なんだよ?」

「――あとがき」

 小さく、震えるような声でそんな事を言った。

 俺は少し、棗を買い被っていたのかもしれない。そうだった、アイツも俺も、もう20を数歳越していて、立派な成人だった。

「まぁ、あとがき読めって言われて初めて読んだんだけどな。それまで全く気付かなかった」

 前言撤回。

 やっぱりこいつは文だってまだちゃんと読まない人間だった。わかっていた事だけれど、少しだけ腹が立つ。

「それで? なんでお前がこんなところに居るんだよ……?」

 半ば尖った言い方でそう問いた。

「何でって、記者会見」

 記者会見?

「ドラマのな」

 ドラマ?

「お前のドラマだ」

『ナツさんは今、少し渋滞だそうで、少し遅れているそうです』

 点と点が、1本の直線で結ばれる。

「お前、ナツって、もしかして」

「俺だけど? 市川センセ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ