プロローグ4
「なぁ、卒業したらどーすんの?」
薄暗い部屋の中。外の日もだんだんと暮れを増してきている。その中でピコピコ光っているTVのゲーム画面が鬱陶しくて、ふいに電源を消した。
最近じゃ何をやっても心が晴れなくて困っている。少しでも間があれば何かを心の中で思い、その思った事が徐々にマイナスな方向に動いて行っているし、憂鬱だった。
「どーもこうも、なぁ。就職か院残ろうと思ってるけど」
憂鬱な中、誰とも喋りたくないけれど、喋らなければまた変な事を考えてしまう。しょうがないので、返事を返した。
出会った当時の、昔から変わった感じの無い兵藤明は相変わらずだった。俺より一つ年上で、俺より数十センチ背の高い巨大な奴。
「へぇ、頑張るなぁ。まぁ、壱らしいっちゃらしいけど」
「へぇってなぁ……お前が来いってからあんな偏差値の高いとこ頑張って受験したってのに……」
今でも忘れない。
インターナショナル時代。俺はやっぱりまだ『外国』と言う所に慣れていなくて、明やその仲間や、エマなど、そこら辺の人物とばかり一緒に居た。残念な事に、その中に俺と同学年のやつは一人もいなく、クラスでは已然として微妙な孤立を経験していた。無論、やっぱりその中で特にやる事も無いので勉強をしていた。だんだんとテストの点数も良くなりついにはその学年のトップにまで上り詰めてしまった程だ。その間約半年も無い。
そんなわけで。
「飛び級?」
日本ではありえないような事が起こってしまった。
「そ、1年飛び級。君はもう次のステップに進んでも良いような学力だからね」
いきなり校長に呼び出されたかと思えばそれだ。やっぱり俺の家族も飛び跳ねて喜んだ。俺が飛び級なんて、果たして大丈夫なんだろうか。だってここはまだ俺の知らない事のばかりな国で、その中で……。
「よう壱! やったな! 飛び級ってな結構すげぇぞ」
断ろうか迷っていた時に現れたのが明だった。1歳年上の1個上の学年の、1個となりの家の明。
「あぁ、え。そうなのか……」
これは、チャンスと言うか。なんと言うか。これは受けなければ、俺は一生孤立した面白味の無い学校生活を送っていたんだと思う。それならば、と、俺は不安を打消し、飛び級を受け入れた。勉強についていけなければ、またそれ程の努力をすればいいと思った。それに、この学年には明が居て、エマが居て。
「俺、そこの大学受けるからさ! 壱も一緒に受けねぇ?」
俺が飛び級した先の学年は、あともう少しで卒業だった。言えば、最後の授業をロクにも受けないでの卒業。そんな、インターナショナル卒業まであと少しの時に誘われた一言。口にしたその大学は前まで日本に居た時の俺だってしっている超有名大学だった。入れるのならそれはすごいが、その大学の受験は絶対に厳しいモノだとは分かり切っていた。
「明、……お前がチャレンジャーなのは分かったから。無難にもう少し偏差値の低い大学にしようぜ」
「大丈夫だって! 壱頭良いしさ! 俺だってお前に教えてもらえりゃ入れる!」
「俺が教えるのかよっ!」
そんなわけで、色々ごたごたがあり、色々と色々あって、その某有名大学に受かった俺と明だった。
合格発表で番号があったときは俺と明の両家族で盛大に盛り上がったその中にはやっぱりエマだとか、そんな人たちも色々と来てくれて、俺と明を祝ってくれた。
それなのに。
「俺大学辞めるなー」
そう軽々しく言ったのは大学のキャンパス内で、もうすぐ3回生になろうとしている時のことだった。折角俺が勉強を教えてやって、本人も全力で勉学に励んで、やっと入った大学だというのに。
「は? なんで」
「勉強、ついていけなくなっちった」
語尾の後ろに星マークさえついていそうな、そんな風に軽々しく大学を辞めた。ていうか多分、ついていけなくなったって理由だけじゃない筈だった。勉強が分からないんだったら俺に聞いてきていたし、だから多分、面倒臭くなったか、何かほかの事情があるか、きっとそれだけだ。
「ていうかさ、お前ももっと砕けた生活して見ろよ、こないだ人生の機転過ぎたとこじゃんかよ」
「……」
こないだってのは多分、俺がエマにフラれてしまった辺りの事を言うんだろう。俺が落ち込んでいるのもそのせいだと言うのにコイツは……。
「そんな壱に向けて、俺からプレゼント? ……って言っちゃっていいのかね、これ」
「?」
逆に聞かれても困る。
そんな事を思いながら明を観察していると、ふと引き出しの中からA4サイズの少し分厚い、黄土色の封筒を取り出した。なにやら厳重にされているそれを手渡され、少しだけ不思議に思ってみた。