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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
39/74

勘違いエピローグ 3

「あの……」

「はい?」

 きょとんとした顔で返されて、少しだけ質問に迷った。

「あぁ! ナツさんですか?」

 気付いてくれたようで……。キャストさん達の顔合わせって事でここにいるのに、重要な人物がいないのを、何故みんな気にならないのか。

「すみません、先生。ナツさんは今、少し渋滞だそうで、少し遅れているそうです」

「渋滞……ですか?」

 それ、会見に間に合うのか?

「多分、会見には間に合うかと思いますが、とりあえず、自己紹介はこれくらいで。会見の控え室に移動しましょうか。」

 俺の考えてる事が分かるのか、なんていうようなタイミングの返しに、詰まってしまう。

「あ、はい」

 そんで、少しだけがっかりとした。一番顔を見たかったのは、その棗役だったから。棗にしか絶対に合わない役に、ここまで周囲の心をガッチリと掴むその役者は、どんな人物なのか。

 それだけ、気になっていたので。

「少し時間ありますね」

 会見の控え室に入ると、担当さんがそんな事を言った。

「後何分くらいですか?」

「10分はありますね」

「じゃあ、ちょっとトイレに行ってきてもいいですか? 緊張してて…」

「えぇ、大丈夫です。場所はわかりますか?」

「はい」

 トイレに行きたいってのは本当だったけれど、別にトイレを本当の用途として使いたいわけじゃなかった。ただ髪の毛をもう1回だけ整えたかっただけ。

 控え室を出ると、また大きな廊下が広がっていた。まぁでも、昨日もここを通っているので、迷う事の方が難しいだろう。

 トイレに向かいながら、俺は少しだけ記者会見での質問でも考えていた。どんな事聞かれるんだろうなー? みたいな、そんな感じ。

「あとがきの事聞かれたりして…」

 まぁ、それなら別に答えて上げるんだけど。でも、それも随分と脚色された虚実なんだけれども――。

 本当の事なんて、棗以外に言えるものか。

 そう一人心の中で訴えながら、トイレに入る。ピカピカな鏡の前に立って、ゆっくりと深呼吸をしてみた。それから、目を閉じて3秒間。

 緊張していない心臓が、ゆっくりゆっくりと音を刻むのを聞こえた。

「もっとした方が良いのかな」

 緊張。

 大学受験の時も、合格発表の時も、論文発表の時も、なんでもなんだって、心が跳ねた事を感じた事はあまりない。脳内では驚いているつもりだったけれども、内心はどうやら、『あたり前だろ』なんて思っているようで。

 どんな自信過剰だよ、なんて思って、でもそれが俺の本心なんだから仕方ないのかも、なんて諦める。

 そう、仕方ないのだ。

「あと5分…」

 左手に付けてある腕時計を見ながら、そろそろ戻ろうと思って、その前にもう一度だけ鏡を見て前髪をさすった。

「よし」

 十分な気合を入れて、トイレから出ようとした。

 その時に、視界に誰かの胸あたりが映って、少しだけ身を引く。

「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」

 低い声に、耳が引き寄せられる感じで、俺には聞き覚えの無い穏やかな声。落ち着くその声に、俺はふいに顔を上げてみた。

「――…」

 聞き覚えの無い声の主。

「っ、……、」

 見覚えのある、顔の主。

「な……」

 跳ねない心を仕方ないと感想した。

 そんな心が、一瞬だけ、止まる。

 例えば、そう。

「っ、…いち――」

『俺が絶対見つけるから、お前のこと』

 あの時の、あの頃のように。

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