勘違いエピローグ
思ってた事だけど。
「なんか、思ってたのと違うなぁ……」
なぁんて。
絶対に売れないな、ていう自信があった事。それは何故かは分からないけど。多分、昔の俺が書いた物だったから。
だから、記者会見、ってなったときに正直思った事。
「バレちゃうじゃん」
もし棗がテレビを付けたとき、俺が映っていたら、一発でバレてしまう。でも考えて見れば、バレることがデメリットであるのなら、メリットもあるという事だろう。ではそのメリットとは何か。
さよならを聞いてもらえる確立が上がるという事。
それならば、その方がありがたい。バレてしまう事はあるかもしれないけれど、会ってしまう確立なんて僅かなものだろう。たしか昔、アイツは芸能界に入る、なんて言っていたけれども、俳優のそいつとアマとプロの境目みたいな小さな小説家が顔を合わす事なんて、相当な奇跡や運命でもなければ無い事だろう。
「だから大丈夫」
そう、大丈夫。
アイツと離れて数年。1回も会わなかったし、見なかったし。だから絶対に会わない。
「市川先生、キャストの皆さんとの顔合わせ。大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
会見用のスーツに身を整えて、髪の毛をもう1回だけ鏡で覗く。本当に、これで終わりだろう。本で、ドラマで、会見で。ドラマが終わってしまえば、全て終わり。
「行きます」
ホテルの室内から出て、編集担当に連れられて控え会場へと向かう。心は何故か知らないけれど落ち着いていた。思えば、昔から緊張する場面で妙に心が落ち着いてしまうのだ。それは多分、弓道のおかげなのだろうけど。
エレベーターを抜けて、記者会見場の隣の部屋へと足は動く。
「こちらです」
部屋の前で、足は泊まった。1回の深呼吸と、3秒の沈黙。
ドアが少しずつ、編集担当の手によって開けられていく。
「……」
今度こそ、すべてが、終わりなのだから。