再会を期して 3
それはどんな事なのか、疑問に思って聞いてみた。
記者はカバンの中からその小説を取り出して、一番最後のあたりを開いて、俺に見せてきた。
「あとがきです」
「あとがき?」
小説にも、経済本やポエムとか、色々な物の最後には必ずついているアレ。多分記者に言われなければ、俺はもしこの本を読み終わったとしてもあとがきなんて読まずに終わっているだろう。そもそも少しだけ読んだとは言ったが、読んだのは10分の1よりも少ないだろう。
「あとがきは普通なら、この小説を書いたきっかけや、その日々、読者に向けての言葉が多々なんですけれど、これは読者に向けて、と言うよりも、たった一人に向けた言葉……って言えばいいんでしょうか?」
「変わってると?」
「えぇ。言ってしまえば、『手紙』でしょうか」
市川有紗は、その一人へ向ける手紙を皆に見られると言う事を思ってそうしたのか、少しだけ疑問になった。もしかしてここまで売れるとでも思ってなかった、なんて事はないだろうか。もしそうだとすれば、自分の才能ってのを少しかいかぶり過ぎていたことだろう。
「いま結構話題なんですよ。読んでみてください」
読んでみろと小説を渡される。
億劫になったが、仕方が無いなんて、文頭に目を落とした。
*
あの時のあの頃を、私もあなたも、忘れる筈は無いでしょう。
あなたと居て楽しくなかったと言えば嘘になり、少しの後悔と言えば真実になります。あなたは後の日々をどう思いながら過ごしていた事でしょうか。
後悔と言っても良い、悲しみと言っても正しい。あの頃の日々は、不正解だったのでは、なんて思った頃もあったのでは?
でもそれも正解で、それでも模範解答を聞かれれば、それは私にも分からないのです。
だから、この本をあなたに。
あなたは本なんて読まないかもしれないし、この本を手に取ることもないかもしれません。そういう人だからね、だから期待はしていない。自己完結だけでも良いから。でもごくわずかでも望んでも良いというのなら、10年後20年後、何かの拍子に、ほんの奇跡で、あなたにこの本を手にとってほしいのです。
だから、いつかの日のあなたへ。
もしあなたがこの作品を呟いた時、それは私があなたに「ありがとう」の意を表していることを、伝えておきます。
少しの確率で良いのです。いつしかこれを手に取る時を信じて。
この本からの、再会を期して。
I love you.