再会を期して 1
「棗、今日午後からドラマの記者会見だからな」
「スーツは?」
「あるよ。取材終わったらすぐ着替えてな」
「わかってる」
相変わらず忙しい日々が続いている。今日は朝5時からの早朝撮影に、10時からの雑誌取材。1時からの記者会見。
いつも、ドラマは映画と違って会見なんかは無いけれど、異例の海外住みベストセラー作家の帰国に、記者は大騒ぎらしい。まぁ、世間がどう思ってるかは別だけれども。面倒臭いところもあったけれど、仕事なら仕様がないので。
「行けることなら俺が海外に行きたいっての」
1秒でも早く、見つけるため。
「今度海外ロケゲスト、頼んでみてみるよ」
「なんならレギュラーでも良いぞ」
「それは困る。日本だけで忙しいからな。お前の体は1つ以上は無いだろ? 体が持たない」
休憩の合間に、ザキさんとそんな会話をしていた。まだ、海外ロケが本当に俺の前に舞い降りて来てくれる事を願うしかない立ち位置の人間なのだ、俺は。
少しだけ、少しずつ、でも早く。アイツを見つけるために。俺は必死で頑張った。でも、あといくら頑張ればそれは報われるのか、それもまだまだ分からない。
「ナツさん! お願いします」
「はいっ……!」
取材再開の合図だった。
用意されたパイプ椅子に座っていると、30半ばくらいの女性記者が目の前までやってきて、テーブル向こう近くの椅子に座った。
「それじゃ、いろいろ聞かせてくださいね」
「お手柔らかにどうぞ」
少しの会釈をしながら苦笑いでそう言うと、記者はクスクスと笑った。
「今回恋愛ドラマに出演されると言う事ですが、心境は?」
やっぱり、ドラマか……なんて思って、スラリと答える。
「そうですね、いつもどおり以上に頑張ろうと思ってます。主人公の『春樹』は、ちょっとぶつくさで、でもたまぁに何かにいつも真っ直ぐで、昔の俺に少し似ていますし、気合が入りますね。『春樹』の印象をどう視聴者に与えていくか」
『自ら素を明かすのも好感度アップに良いと思うわよ、良い意味の逆効果』
なんて薺に言われた事があった。なるほどな…なんてあっけなく釣られて、たまにやるのが少しだけ好きだった。
「え? ナツさんてそういう感じの性格だったんですか? ちょっと意外です。皆さんきっと、かっこよくて、真面目で誠実で、そんな理想の男性だと思われていますよ」
薺の言う事の大体が、当たっていたからかもしれないけれど。
「そんな、ありがとうございます。でも本当に、春樹に本当にそっくりなんです。是非見てくださいね」
時々答えにドラマの宣伝も混ざっていて、記者はますます笑った。
「はい、是非。ドラマの野中監督にも以前インタビューしたんですけど、ナツさんは凄く春樹役にピッタリだと褒めていましたよ」
「本当ですか?」
「はい、本当に! もしかして春樹役のモデルはナツさんだったりして……」