帰国から 5
午前7時、携帯のアラームがなった。重い頭がアラームを止めようと右手に指令を出す。ユラユラと伸びる手は右へ左へ右往左往した。
「……ん、…ん?」
何かおかしいなー、なんてそんな事を朦朧と考えた。伸びる手が触る感触は、フカフカとした布団と、固い物置代と、髪の毛。
「ぅん……?」
自分の頭には触られるような感触はしない。
広い室内に、携帯のアラームが鳴り響く。そのうるささを止めたいってのと、感触の理由を知りたくて、体を起こした。取り敢えずアラームを止めて、開けられない目をこする。
「あー、ぅるせー」
アラームを止めて少しの間。時間差でそう呟いた一言は、向かってすぐ右から聞こえた。左には壁、そんで右。
「っん!?」
昨夜あれほどソファで寝ろと催促した奴が、何故か俺の横で一緒になってベッドで寝ていた。でも寝るときにちゃんとソファで寝ていた筈なんだけれど。
「おい、起きろ」
そう言ってバシバシと頭を叩けば、そいつは頭を抑えながらすぐに飛び起きた。
「痛ってー。痛たたた。なにすんだよーもー」
「そっちこそ何してんだよ、ソファで寝てただろ。なんでベッド入って来てんだ」
呆れたようにベッドから出た。
目をしばしばさせたまま、明はベッドに入ってきた経緯をボソボソと語る。
「夜トイレ行って、間違えてそのまま。一回気づいたけど、まーいーやー。……みたいな?」
「……お前は男と寝て楽しいか?」
「んー、まぁ。壱ならオッケー」
「それって褒め言葉?」
「勿論」
「どうも、全然嬉しくないけど」
朝から大声出す気にもなれず、そんな事する年齢でも無く、俺は明とその少しだけ会話をして、洗面台へと向かった。顔を洗って、歯を磨く。それだけの事で頭がすっきりと冴え、もっと大声出す気を失った。
「市川センセー。今日のご予定は?」
わざとらしく俺を『市川先生』と呼ぶそいつは、起き上がって洗面台にやってきた。何が市川先生だ、なんて思ったけれど、その前に。
「お前は俺のマネージャーなんじゃなかったのか? それくらい把握してろよ」
「だって編集の人達? 俺じゃなく、お前にだけ伝えるんだもの」
「しょうがないだろ、お前の事マネージャーなんて、俺言って無いもん」
「え、何? 俺ってただの観光について来ただけだと思われてるの?」
「勿論」
うわー、そりゃ困った困った。長年米国にいたせいなのか、小さくそう英語でボヤきながら、明はバツの悪そうな顔をした。
「まぁ、いいけど。で、予定は?」
「昼12時から出演者と監督、脚本との顔合わせ。1時から会見だ」
「へー。そりゃ、昼のニュースは中継かなんかかな?」
「そこまでは知らない」
「お前有名になるぞー。うわー! 市川先生かっこいー! マネージャーも超かっこいー!」
朝っぱらから掠れた高い声を出されて、耳がキーンとなった。朝からジョークも言えるようなテンションに、少しだけ勇気をもらう。
「明、飯食いに行こう」