プロローグ3
そこから話しは大きくに変わるが、俺がアメリカに来て5年、エマと付き合い初めて4年半が経った時の話しをする。
出会ってから、仲良くなり、その仲良くなりすぎた関係からはそれっぽいような感情が生まれる。そこからは、ある選択肢が生まれる。付き合って恋人同士か、付き合わないで友達のままか、はたまたぎくしゃくしちゃって口も利かなくなるか。付き合えばまた次の選択肢が生まれ、付き合わなくてもそれは変わらない。俺とエマは付き合うと言う選択肢を選んだ。そうして恋人同士になり。そしてまた、時は経て、選択肢が生まれる。
ずっと一緒か、別れるか。
「どっちが、壱にとって幸せかな?」
突きつけられたその選択は、あまりにも単純すぎてため息すら漏れた気がした。
「ずっと、一緒」
そう一言答えて飲み込んだ紅茶は、味がしなかった。味がしなくてもう一度ペットボトルに口を付けてそれを飲み込むが、やっぱり味がしない。不思議だな? なんて思って紅茶を覗くと、紅茶の水面が震えていた。無意識の震えよりは、激しいような気がして、ペットボトルから目で辿って、腕を見た。フルフルと震える腕が、今自分が物凄く動揺しているのだと、そう直感していた。
「ホントウに?」
「……なんで?」
直視した青い目だって、微かに揺れている。
「何か選択して、どれかを選べば、そしたらそれからまた次の選択肢が出てきて、それのループ。良い選択をすることだってあれば、その逆も。その中には、自分一人勝手じゃ選択出来ない選択肢だってあるの。二人の選択肢だって、三人だって、それ以上だって。ねぇもし、このまま『ずっと一緒』は、壱にとって良い選択?」
風で、その綺麗な金髪がなびく。大木の木陰は良い感じで俺を涼ませてくれた。その前に汗だってかいていたから、少しだけ肌寒い気もするが。多分その体感温度の理由はそれだけじゃないはず。ベンチに俺とエマ。間に人一人分の空間がある。その距離が、すごく遠い気がした。
ずっと一緒が俺にとって良い選択かなんて、何でそんな事を聞いてくるんだろうか。俺はエマが好きで、だから付き合って。
俺は――。
「私にとっては、良くも悪くもない。何も無いの」
彼女の綺麗な横顔が、少しだけ妬ましかった。
「私の中で、私と壱との間に、何も無いの」
悲しい。何故かそんな感情は湧かなかった。込み上げて来るのは愛しみと、憎しみと、懼れ。
「こんな私とずっと一緒は、壱にとって良い選択?」
正直、殺し文句だ。あんな事言われてそれは、じゃあ、俺は何て言えばいい。俺はエマとずっと一緒に居たいと思う。エマは思わない。それどころか俺と一緒は無だと。
「俺は――」
俺は、何て言えばいい。
どうすればこの絶対絶命危機から抜けだせる。何を言えばいいかわからない。それでも言わなきゃすぐ後に待ってるのは絶望で。それじゃあ俺は何と口にすればいい。
とくかく、なんでもいいから。なにか。はやく。
「っ、……」
「 、」
何て言葉にすればいいか、何を言葉にすればいいか、分からなかった。
分からなかった。
*
そして話しは、冒頭に戻る。