帰国から 4
「アメリカに帰れ」
「えーだって、しょうがないじゃーん。帰国便は今日じゃないぜ?」
「手配しろ、それくらい」
「連れねぇなー壱君ってばさ」
アメリカから同行と言う感じで明と一緒に日本へと戻ってきた。俺の小説のドラマ化発表記者会見、それもかねての、ドラマ原作者『市川有紗』の発表。編集者も記者も市川有紗しか見ていないのは明白で、見知らぬ『兵藤明』なんたる人物には目もくれないし、しかもこっちに一緒にくるまでは来るのかも知らない。
なので。
「しょうがねぇだろ、部屋、俺の分しかないんだし。こんな高そうなホテル、もう一室取るなんてそんな事出来ないだろ」
「だから壱の部屋に泊まるってんじゃんか」
「ソファで良いならなって、これ何度も言ってるよな?」
「俺ベッドでしか寝れねーの」
嘘つけ、とそう思う。アメリカでは何回も何度も明がソファの上で寝ているところを見たことがあるから。自分の家のソファより高そうでフカフカなソファの、何がそんなに嫌なのか。
「いーじゃん。ここスイートルームじゃん。ベッドも広いしさー」
広さ云々とは、……何故今その話しをするのか俺は疑問に思った。
「今はお前がソファを使うか帰るかの話しだろ」
「えー? だって一緒に寝ればいーじゃん」
「やーだよ、お前寝相悪いから」
「今日は凄く姿勢正しく寝れる気がする」
それはどんな寝方なのか。
「どんな寝方って……まぁ見てれば分かる」
「お前がソファで寝てるとこ見とくよ」
「ちぇー。まぁ壱がそんなに言うならソファで良いよ」
言葉で擬音を言いながら、明は口を尖らせた。こんなあっさりと承諾するのなら、最初っからそう素直にソファで寝とくと言えば良かったんじゃないか。なんて思った。
「明、明日お前どすんの?」
「どーするって……なにが?」
「暇だろ、俺が会見してる間」
久々の日本だし、どっか遊びに行ってくればいいんじゃないか? なんて言おうとして、言われた。
「何言ってんだ。俺は壱の付き添いなんだから、見るぞ」
「へ?」
「最初に言っただろ、『マネージャー』なの、俺。お前のね」
俺と自分とを交互に指差しながら、そう言う。
「え、俺、お前にインタビューの答え聞かれるのって嫌なんだけど」
「恥ずかしがんなって! 壱はむかしっからシャイなんだもんなぁ……」
しみじみとそんなでっち上げを語るので、少しだけイラっとした。
「話し作るなよ……」
「んっは!」
おかしな声で笑うので、やっぱり一緒に笑ってしまった。そんで心の中で『そうだもんなー』なんて思う。この状況は元はと言えばコイツが作って、導いて、プレゼントしてくれたものだから。
聞かれても、嫌でも、辛くても、頑張って行くしかないんだなぁなんて思って、たくさん感謝をしてみた。もしかしてコイツは本当にベッドで寝かせるべき相手なんじゃないのか、なんて思ってもみたけれど、そこは無視した。だって、俺だってベッドで寝たいから。
そう思って、寝た。