帰国から 2
迎えに来てくれた出版社の人が用意してくれた車に乗り込み、空港すぐ傍にあるファミレスへと休憩がてら足を踏み入れた。
とりあえずとコーヒーを頼み、一息吐く。
「日本にわざわざ来てくれてありがとうございます」
「あ、いえ。こちらこそ、ありがとうございます」
「これから、忙しくなりますが。とりあえず今から御門ホテルに行って、ホテルにはもう予約を入れてあるので、チェックインさせてもらいます」
「はい、」
「それからは自由にしていただいて結構ですので。記者会見は明日の昼4時頃になります」
「あの。……俺、何も言う言葉考えていないんですけど」
いきなり言われ、届いた日本行きの航空券。準備に追われ、それに大学の勉強もあり、何もそういう事を考えてはいられなかった。
「大丈夫です。質問は記者の方からされますので。そのまま即興で答えて頂いて構いません」
それは俺の事を信用して言ってくれているのだろうか。それとも、『まぁ、適当で良いよ』と軽く言っているのだろうか。どちらにせよ、そういう事は完璧に把握してやりたい俺なので、妙に焦って緊張している。
「そんな厳重で固い会見ではないので、そんな緊張されなくても大丈夫ですよ」
「はぁ――、」
編集長の言葉は、なんとも俺をもっともっと不安にさせてくれるものだった。
「それにしても、市川先生はなんというか、……イケメンですね」
マネージャーさんも格好いいですね。と、編集さんの付け足し。明を見てみれば、その言葉に嬉しそうにニヤニヤといやぁ、それほどでも。と頭をペコペコさせている。
「アメリカ在住、謎の期待の小説家が公になるわけですから。こんなにビジュアル面でも完璧なら、小説はもっと注目されるでしょうね」
「そんなこと……、」
もしかして10代の昔の俺ならこんなに自分の顔を褒められて物凄く嬉しがっている事だろう。いやぁ、モデルにも負けませんよ。みたいなことを喋っていそうで、何か恥ずかしくなってくる。
でも、大人になったんだなぁと感じる部分は、こんな事を言われても有頂天にならないとこだろうか。
「お付き合いされている相手とかは……?」
「いえ、今はいません」
「そうですか、」
思い出す人はエマ。今はいないと言う事は、近い昔には居たという事だ。この編集長ならばそれくらい脳内で考えているんだろうな。
「そうだ、ドラマのキャスティングの事をまだ話していませんでしたね」
キャストについては、今は日本には住んで居ず、日本の俳優女優の事は分からないので、全部そちらに任せたままだった。
「今回、話題の小説ドラマ化と言う事につきまして、話題の新人タレント俳優や、結構芸歴のある俳優さんをキャスティングさせてもらっています」
「へぇ、……」
「小説に忠実な脚本なので、登場人物達も忠実な俳優ばかりですよ」
へぇ、と感嘆した。俺の小説はどうせ単に新人俳優を売り出す為の捨てドラマモノだったりするんだろうなと思っていたけれど、そこまで頑張ってくれているとは思っていなかった。
「その中でも、春樹役のナツがぴったりで――」
「――……ナツ?」