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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
24/74

決着 2

「え、日本? 行くの?」

 明が俺の家に遊びに来た。もうこれは日課と言っても良いほどほぼ毎日行われるようなものだった。今日も俺の家に上り込んで俺の部屋のベッドに寝転がり込む。そんな事でいちいちキレたりはしないので、俺は話しを続けた。

「うん、もうすぐ夏休みだろ? 編集の人も会いたがってて。相談したい事もあるって言われて、なんか顔見て話さなきゃいけないような大事な事なんだってさ」

「へぇ……いよいよそれっぽくなって来たな。俺のプレゼント」

 そういえばこんな楽しい事になったのは元はと言えば明のおかげだったか。

「ありがとう、嬉しいよ」

「なんだ壱。やけに素直だな」

「そうか?」

「じゃあ素直な壱君に甘えて……俺も日本に行くかな」

「は?」

 唐突だったので、俺はちょっとびっくりしてしまった。俺なんの予定もないし、等と呑気に簡単に言ってしまう明に、俺は少し尊敬の念さえ覚えてしまいそうだった。

「お前、家族は。……金は?」

「そんなん一言言えば済むさ。金はバイトしてっから大丈夫。それに、一人じゃ心細いだろ?」

 それはそうなんだけど。

「まぁ、あれだ。マネージャーみたいな感じ?」

「小説書く人にマネージャーなんて居たっけ?」

「それは気にすんなよな」

 ガハハハと笑う明に、お前にマネージャーがホントに出来るのかと、ため息を漏らした。

 まぁ正直に言うと、一つだけ。嬉しかった。やっぱり一人で日本に戻ってくるのはちょっとさみしかったから。家族には家の事や仕事の事や学校の事がある。みんな案外忙しいので、家族が付き添ってくれるなんて元々考えてはいなかったが。

 母さんには友達に会いに行くのかと聞かれたが、言ってしまえば元友達。日本の頃の友達なんて、もう俺の事を覚えてはいないだろう。

 矢西も、仲佐も、真琴もかは分からない。ただ忘れてくれていても別に構わないと思っている。最後は俺の身勝手だったから。

 あと、一番忘れていて欲しい相手。

 母までアイツの事を微かに覚えているとも思わなかった。あいつと母が対面していたのはあの数秒の間だけだったから。

「壱、携帯鳴ってるぞ」

「ん……」

 ベッドに放り投げて置いた携帯は、やっぱりマナーモードで、小刻みに震えて微かな光しか発していなかった。ベッドに寝ている明から携帯を貰い、画面を開く。

「編集からだ」

 なんだなんだと思い、ボタンを押した。

「星空編集部編集長の渡部わたべです。市川先生ですか?」

「はい、そうですが」

 いつもは編集担当と打ち合わせしていたが、何故か今日は編集長の渡部、なんてお偉い人が直々に俺に電話をかけてきていた。

「近い内にこちらへ顔を出していただけるとお聞きしましたので」

「はい、それでしたら、編集担当さんと日付を確認しております」

「ドラマ化の話しは聞いておられますよね?」

「はい、確か今年の秋に放送が開始されると」

 ドラマ化の話しを持ちかけられたのはつい1、2ヶ月程前の事だった。一つ返事でOKした事を今でも覚えている。

「それで、あの。……脚本のつつみさんが顔を見て一度お会いしたいと言われまして、それを聞いて監督の野中さんともう一人いる脚本の杉谷さんが賛同してしまったんです」

「お会いするのは構わないですが、」

「それでですね、6日後に御門ホテルで軽い記者会見がありまして、主演出演者等も一斉に来るそうなんで、その時にと言う話になりまして」

「む、6日後っ?!」

 余りに急すぎた話しなので、俺は電話越しに大きな声を出してしまった。一番びっくりしたのは編集長でも俺でもなくて、多分明だろう。

「困りますっ、チケットの手配とかあるんですよ?」

「それは昨日お送りしましたので、明日明後日に届くかと思われます」

「それにしたって、大学がありますっ!」

 この俺に大学を休めとでも言うのか、この編集長は。

 いよいよ半ギレの俺を不思議に思ったのか、明はベッドから起き上がってどうした? と俺に聞いてきた。

「いや、ドラマの監督と脚本が会いたがってるって話なんだけど、顔合わせを6日後に設定しちゃったって言われて」

「へー……急だな」

 ほんとだよっ!

 俺と同じ思った事を普通に口に出してくれたので少し嬉しかった。

「なんとかズラす事はできませんか?」

「いえ、……あの。…もうOKしてしまって」

 なんて人勝手な編集長だ。

 強引すぎる……。いや、強引すぎないと編集長になんかなれないのか。……こんな下手したてに出ているのは演技か?

「壱、俺に携帯貸してみ」

 困っている俺を見兼ねた明は手を出して携帯をねだった。どうする事も出来なく、なんとか予定をずらしてもらいたい俺は、多分どうにかしてくれるだろうと明に携帯を手渡した。

「もしもし、あ、はい。初めまして。壱……市川有紗のマネージャーの兵藤明です。えぇ、はい。いえ、いつもお世話になりまして」

 俺はお前をマネージャーにした覚えなんかないんだけどなぁ。

「はい、その件ですね」

 まぁ、いいや。

 さっさと断ってく……。

「了解しました。」

 え?

「6日後ですね、」

 は?

「OKです」

 ちょ。

「はい、ではまた5日後に。ええ。では失礼いたします」

 プツっと切れた音がして、明が携帯をパチンと閉じた。何にも言えないまだポツリと明を見つめる俺に、明はニコリと俺に笑いかけた。

「いや、断れよっ!」

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