お願い
「つかれた」
「そりゃ俺のセリフ。心臓バクバクしたぞ」
俺だってもうお前みたいに若くもないんだから、と、何やら自虐気味に呟いたザキさんが運転する車に、俺は乗っていた。
ドラマミーティングはその後まぁまぁ上手く落ち着いて終了した。軽い自己紹介と、軽い台詞の読み合わせと、それから監督と脚本が考えるドラマ思考。作者について。
その間鮫島からの睨みつける視線は止む気配がなかったけれど、それでもまぁ無事に終った。
終わって会議室から出るときに、肩を意図的にぶつけられた時はイラッと来たけれど、考えてみれば全部ガキみたいなモノだったので、無視した。
「次なんだっけ?」
「ヒザシTVの特番のスタジオ収録」
「りょーかい。俺少し寝る、ついたら起こして」
「おう。爆睡しないようにな。お前一回寝たらちゃんと起きないから」
「はいはい」
まぁ何回も言ってるけれど、芸能界なんて面倒臭い事の集合体みたいなもので、それを今更どうこう言うような短い時間だけなんて、芸能界にはいない。もう結構時間も経っていて、それに立場もまだ下の下で。
俺はあんなんでつまずいてなんていられない。
アイツを探して、見つけて。そんで……。
そんで俺は、どうしたいのだろうか。
アイツを見つけて、とりあえず抱きしめたい、触りたい、実感して、……もう遠くに行かないでほしい。俺の皮膚に縫い付けたって良い。心臓でも良い。
それで確かめたい。
あの時の答え、俺の事をどう思っているのか。好きなのか、嫌いなのか。嫌いったって、絶対に離さない。
距離がなんだ。時間がなんなんだ。
俺はそのお前との時間距離を縮めようと努力をしている。一生懸命。関係ない。
――俺はお前さえいてくれればなんでもいい。
薺を裏切って芸能界を辞めることだってできる。
普通に暮らしたっていい。サラリーマンになって、ちっせぇ家に住んで。ホームレスでも、なんでも。今でも、それくらいお前が好きだ。
コノヤロウ。
あぁ、本当にもう……――早く早く。