鮫エージェンシー 3
同じマネージャーとしてそんなやり方は許せない。とでも思っているのだろうか。ザキさんは冷静に静かに声を張り上げた。まぁそれはそうだろう、他人事のように聞き流す俺だって良い気はしないのだから。
「ですが、今回の件についてはこちら側に否がありました、本当に申し訳ありません。……ほら、叶」
「ぅ……す、すみませんでした…」
嫌々と、頭を深く下げる叶。そうそう、素直に謝っとけ。
なんて、まるで他人事かのようにその現状を見ていた。話しには何一つ関わっていないし、口を出すつもりもない。俺がわざわざ交じる必要性も無いだろうし、色々ごちゃごちゃになるだろう。
それに、こういうのはもう慣れた。
「あ……んた。ぐっ……いや、まぁいい。これから気を付けろ」
偉そうに。
「ありがとうございます。……あ、そちらのお名前は?」
そういえば、このマネージャー自分の挨拶もまだ無い。それどころか、自分の管理しているタレントを押し出そうともしていない。
おいおい。教育も気をつけんのもお前のが先なんじゃないのか?
「鮫エージェンシー、社長の鮫島勇武の息子、兼、藤原牧のマネージャーをしている。鮫島巡だ」
偉そうなのは本当だった。自分の親父が権力もあり、偉ければ自分だってそうなんだと思い込んでしまう。ようはアレだ、世間知らずの坊っちゃん。
俺の嫌いなタイプ。薺もそうだが、アイツはちょっと違う。アイツには人間を見る目があり、だから今、芸能事務所を経営できている。
「コイツはこんなんだが、父さんは何かとコイツに期待していてね、余りコイツにちょっかいかけるのは止めてくれ」
「メグちゃんっ。そんな言い方っ」
「お前は黙ってろっつの。友達云々で仕事もろくに出来ないようになられりゃ俺が困るんだよ」
鮫島は相変わらず自分の服の裾を引っ張る藤原をきつく睨みあげた。目に涙が溜まっている。そんなにコイツが怖いんだろうか。
まぁ、そこまで言われてしまえば泣きたくもなるだろうか。
友達が居たら仕事が出来ないとは、一体誰の入れ知恵なんだ。別に俺にだって友達くらいいる。叶とだってしょっちゅう話しているし、他の奴等とも。それでも仕事だってちゃんとやっている。台詞も覚えるし、番組の台本だってよく目を通す。
人さまざまとはよく言うが、友達が出来れば仕事が出来ない奴なんて、居るだろうか。
実は鮫島はそんな人間だったり……。いや、それは無いか。元々友達なんていない性格と人を寄せ付けにくいような顔つきをしている。マネージャーなんて向いてもいねぇ。
「酷い……」
叶が小さくそうこぼした。鮫島には聞こえないような声だったと思うが、鮫島の藤原を鋭く睨む目は叶へと移った。
「あぁ?」
ドスの効いた声。
お前は不良か。
「なんか言ったか?」
「……」
黙り込む叶に俺は小さく溜息を吐いた。いや、叶ではなく、本当は鮫島に向けた溜め息だったのかもしれない。
性格は気に入らないし、そう思ったら顔だって気に入らなくなってくる。
「アンタ、なんか、本当にウザいなぁ――」
独り言かのように軽くそう呟いた。勿論叶の小さな声ですら聞き取ったコイツの事だ。聞き逃すわけもなく。
般若みたいな鬼の形相のそいつはターゲットを俺へと返した。
あぁ、本当にもう――。