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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
16/74

嵐の前の

 本が出版された。多分店頭に出されたのは俺が大学で授業を受けている間だろう。実感はやっぱり湧かなくて、頭が少しだけフワフワした気分。

 本を出してから次に出版社から連絡が来たのは、それから1週間後の事だった。ウィークリーランキングの結果報告らしい。結果はいわずもがな圏外。まぁ当たり前の事だろうとは思ったが、心の中は何かモヤモヤした感じでいっぱいだった。悔しいって事だろう。

 それからは2週間目も圏外で、その次も圏外だった。

 やっぱ無理なんじゃねぇ? なんて、そんな事を俺も出版社も明なんかも思っていた時に、それは変化した。嵐の前の静けさ。なんて言葉が似合うんじゃないの? なんて、上手い事を誰かに言われた気もする。

「4週目にしてランクインだぞ!」

 98位。

 あれれ、と少し考えてみる。果たしてこの数字は凄いのか普通なのか悪いのか。別にこんな順位を叩き出しても『嵐の前の静けさ』なんて言えないだろ。

「5週目56位だ!」

 うん? 前回よりはかなり上がっているけど、これだってあまり大した数字じゃないんじゃないのだろうか。確かにすっごい上がったのはかなり嬉しいけれども……。

「21位だぞ!」

 嵐の前の静けさ?

「19位!」

「15位!」

「7位! トップ10入りしたぞっ」

 誰かが上手い事を言った通り、あれは嵐の前の静けさと言われるような感じのモノだった。今はちょうど嵐が上陸した頃だろう。

 出版社が言うには、ちょくちょくテレビで放送されるし、取材の電話もかかってくるらしい。やっぱり『正体不明の海外住み』ってのがかなり大きいっぽい。

「この調子で次もよろしく!」

 なーんて言われた俺は、かなり舞い上がっていたと思う。圏外の時に心がモヤモヤした。だけど今はどうだ、高揚感。達成感。そして疾走感。俺はこの世界でやってくだけの力があるんじゃないんだろうか。

 そんな事をただ考えて、そして明るいPC画面の前でキーボードをひたすら叩いた。

 構成を練って、それをノートに書き写し、場面転換。そこまで綿密に仕上げて、それからストーリーを書いていく。

「次は一気に変わりましたね、……うん、これは良いと思います。構成もちゃんとしている」

 もしかして本当に、俺はこれで食っていけるんじゃないか、とか。

「そういえば、上が先生の小説のドラマ化や映画化のオファーが来てるだとか、……そんな噂をしていましたね」

 もしかして本当に、俺はいろんな人に評価してもらえるようになるんじゃないか、とか。

「それで、あの。……こちらに戻ってくる、って事を、少し考えてみてはくれないでしょうか?」

「帰国……ですか?」

「はい。こうやって喋ったり、メールしたり。そういうのではなく、直接会ってやっていった方が、お互いの時間も都合も、原稿だって、スムーズに進むと思うんです」

 その通りだった。

 俺には大学があり、向こうには仕事がある。喋る時間は限られていて、さらに追い詰めるかのような時差があり。原稿の確認があり。

 やっぱりその点に関して言えば、国を跨ぐやり方はやりづらい。

「考えてみます」

 もしかして本当にこれで生きていけるんだとすればの、そんな話し。

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