決着 1
少しの確率で良いのです。
いつしかこれを手に取る時を信じて。
*
「出版は来月3日の予定です」
いつものやりとりメール。いつどの角度からその文を見たって、いよいよだった。
それでも緊張での胸の高鳴りなんかあの日から1回も無く。
「ありがとうございます……っと」
まさか、こんな事になるとは思わなかった。あの文は100%、人の明るみに出ないままいつか削除すると思っていたし、それが本来なら当然の事なのだろう。そんなクリック1回で消してしまえる文が、クリック1回では消せなくなる。怖いような、嬉しいような。
それでも、そんな些細なモノが人に見てもらえるのなら、俺はそんな幸福を多いに喜ぶべきだと思う。
後悔しないように、精一杯書いてやろう。
「でもあれはやりすぎたかなー……」
後悔しないようにと言っておきながら、早々と後悔してみた。大きなため息を吐き、机につっぷする。まぁでも、こんな後悔だって後の祭り。今日はもう今月の末で、後4,5日すれば来月の3日がやってくる。出版予定がそれなのだから、もう印刷だって全て終わっているのだろう。『やっぱり変えたい』なんて、そんなわがまま言えないし、……後悔したからといってそんな事言うつもりもない。
ただ少し。
「ブリ返すだけ……?」
あの日の『決着』を付ける為に書いただけの事。約束か、願いか。あいつはあの時自分から俺に言った事を、俺の事を、もう忘れていると思う。ちゃんとした彼女がいるのかもしれない。幸せな家庭を築いているのかもしれない。
それでいい。振り替えらなくていい。少し、ただ少しだけコレ見て思い出す程度。悪い思い出で良い。あれ? なんて疑問に思う程度でも良い。
ちゃんと、あの日と『お別れ』出来ればそれでいい。それだけだ。だって、中途半端は俺の辞書には反している。何事にもきっちりとやるのが俺の理で。
せっかく明からもらったチャンスなんだ。自分の努力で道を切り開いて見たんだ。目の前にあるチャンス。上手く使わなくちゃ大損だ。
顔も合わさない。言葉も交わさない。もしかしてあいつはこんなモノ読まないのかもしれない。確率は低い。それでもいい。俺の中で決着を付けれれば、いつかは俺の知らない間に、静かに消滅してくれるだろう。
その時を待って。
そうすれば俺は、あいつの事だって、エマの事だって。きっと忘れられる。
前に向かって、進んで、進んで。