プロローグ1
おひさしぶりです。初めましての方は初めまして、みゅうじん。です。
前篇ファイキー、PV34万突破ありがとです!
そんで続編です・・・。
リアルが忙しく、なかなか更新されない事もあるかと思います
今小説でNLが多々出てくるかとは思いますが、土台はBLです。後でちゃんとそれっぽく・・・
また、前篇Finders, keepers.を見ていない方にはわけがわからん感じになっていますので、あしからず。
「なぁ、卒業したらどーすんの?」
最近じゃこの街にも発砲事件だとか強盗だとか、まぁいろいろ物騒な事件が相次いでいる。大きなTV画面に映るニュースでも隣町の事件がトップになってたりもしているし。日本じゃこんな事はまず少なかったよな、なんて、最近じゃとっくの昔にお別れした日本を懐かしみ思い出す事が多くて困っている。それでもこの国に来て、この街に来て、それくらいの年数は経った。どうだったかなー? とか思う事だって多くて、俺の脳はすっかり日本を忘れていた。
「どーもこうも、なぁ。就職か院残ろうと思ってるけど」
渡米した先で知り合ったただ一人の、年の近い日本人。兵藤明は、出会った頃から何一つ変わっていない。
――回想録―。
17歳。渡米して、帰国子女やら異国の国から来た人が入るような、所謂インターナショナルスクールと呼ばれる学校に入った。中には本当に異国の人が同じ学校に居た。まさに異空間だと思った。学校の外はアメリカ人ばかりで、学校の中にはアジア系からアフリカ系からさまざまな国籍の人がいた。もちろん、俺の他にも日本人だっていて、日本語が喋れる人だっている。
それでもやっぱり外人ばかりで、というか外人だらけで、本場の英語は発音が良すぎて慣れるのに少しだけ時間がかかった。いくら日本人がいるとはいえ、俺と周囲にはやっぱり言葉の壁と言う大きな障害があった。気まずい雰囲気。それでもいつか慣れると、足を学校へと進めた。同じインターナショナルスクールに入っていたらしい明を見かけたのは、ちょうど入って1週間後の、校門前の帰り道だった。どうやら話しを聞けば、明は俺の1年先輩だったらしい事が発覚した。
「あれ、……こないだ引っ越してきた…お隣さんだよね?」
「は?」
見たことの無いその人物に、目が点になる。
「あぁ、窓から見てただけだから。あれ、違った?」
違うかどうかは知らないが。
「ついこないだ引っ越してきたんだ。だから多分、それあってると思う」
「そっかそっか。ここら国際校てここしかないから、多分はいってくると思って探してたんだ。同じジャパニーズだし、それもお隣さんだろ? それに年もちけぇ」
どうやら話しを聞いていれば、明は俺の1年先輩だったらしい事が発覚した。
「……年も近いっ、て…?」
「俺18歳だぜ? あれもしかして若いふりして年食ってる?」
「……」
それはアンタだろ?! なんて思いながら、俺は1歩引き下がって、その男をまじまじと見てみた。
「見えねぇー」
驚いた。
なんせこの男、最初に会った時はその大きさにびっくりした。190はありそうな身長に、筋肉のついた体。正直成人を越えているかと思った。
「あー、俺バスケやってんの」
「へぇ、すげぇな」
その言葉で、何かすべてを納得できたと思った。この大きさでこの体格。バスケ競技は本当にコイツにぴったりだと、そう思った。
「そういうあんたは、何かやってんの?」
「んー……」
今はもうやってはないけど、昔、俺の全てをかけてもやっていたいと思っている事はあった。
「昔な、弓道を少しだけ。もう結構前にやめたんだけど」
初恋と、裏切りと、恐怖と、悲しみと、怒りと。淡々とした感情や直接的な気持ちを教えてくれたモノを、少しだけ思い出す。
「いかにもジャパニーズって感じだな、懐かしいなー弓道。俺やったことねぇんだけどさ。エマが喜びそうだな。あ、エマってな大のジャパン好きな友達」
「エマ……ちゃん」
「俺もあんたと同じ日本から来たんだけどな、そういう昔からの伝統? みたいなもんをちっとも知らんくて、いつも怒鳴られてる」
「へぇ……」
「今から会う? ちょうど今公園でバスケやってるし、皆居んぜ。きっと喜ぶ」
瞬間に、『これはチャンスかなー』と、少しだけ思った。何せこっちに来てから早1週間。日本についての質問は結構な量されてはみるが、中々頭の中から英文がスラスラ出てこない。ここでいろいろお近づきになれば、慣れるものも早く慣れるだろう。
「あ、でも俺、バスケとか、やんねぇんだけど……」
「Don't worry! エマなんか興味も何もねぇからさ! あんたも来いよ、な?」
心配すんな。
とりあえずバスケに関しては何も心配は無いらしい。バスケの本場で初心者が混じってとか、足引っ張るどころか邪魔している風にさえ思えてくるだろう。
「うん、じゃ行く」
「OK! OK! Let's go!」
妙に饒舌な英語がたまーに会話に入ってくる。日本にこういう芸人が昔確か居たはずだ、とか思いながら、俺はジッとその大きな体を後ろから眺めていた。
「あ、そうだ」
大きな体が、俺に振り向く。
「あんたの名前は? まだ聞いてなかったよな?」
そういえば、と。俺も聞き返す。
「俺も、そっちの名前聞いてなかった」
言語の違うこの国でこの存在は、かなり大きなものになるんだろうなぁ。なんて、俺は無意識に笑った。
「俺は有沢壱、よろしく」
「へー、かっけー名前」
そんな自己紹介の後、それから少しばかり歩いて、公園のフェンス越し。
向こうではバスケボールのダムダムした音が鳴り響いている。兵藤と名乗るその男は向こう側で必死になってボールを追いかけまくるその人達に声をかけた。ダムダムとした音が止み、声の主はどこかどこかと顔を左右に向けている。
「エマ!」
見た感じ、黒人と白人の、どれも男ばかりにしか見えない。その中で、兵藤はエマ、と、そう女の子の名前を呼んだ。返事はない。
変わりに野太いカタコトな声が聞こえた。公園の入り口はもう少し先に会って、俺はヨタヨタと兵藤の後ろについていった。顔を合わせたその人達が、兵藤とハイタッチをしていて、こういうのもアメリカンだなーなんて思っていると、その後にジーッとがん見されていることに気付いた。
まぁ、当たり前な反応だろう。
「あぁ、この子は壱。最近引っ越してきたジャパニーズ」
言語も目の色も顔立ちさえも違う人間。珍しいけれど、そんな珍しい存在でもない。
「あー……よろしく」
慣れない英語。多分こいつらから聞いたらカタコト何だろうなーなんて、自分が外人の日本語聞いた時の事を思い出した。
「俺はアントニー、こっちがヤコブ、ジョン、ハーバー、よろしく、壱」
俺に笑いかけた白人は、アントニーと名乗った。
「アントニー、エマはどこだ? 会わせたら喜ぶだろ」
それぞれの自己紹介を後に、兵藤はエマの居場所を聞いた。俺と会ったくらいでそんな喜ぶくらいの日本好きなんだろうか。
「エマならいつものとこに居るぞ、まーたジャパニーズヒストリーのお勉強中だよ」
日本史の勉強。
「あいつも好きだなぁ……壱、向こうだ。行こう」
「ん、……」
兵藤が指を指した先には大きな大木があった。日差しが照りつける中で、そこだけ大きな木陰を作っている。視界から見える木の裏にはベンチらしきものがあった。ふいに涼しい風がスーと吹いていく。目を凝らしてみると、その風に合わせて髪の毛がサラッとなびくのが分かった。
「エマ」
木陰の辺りに近づいて、少しだけ立ち止まった。先を行く兵藤の声に合わせて、ふいに白い指がなびく髪を耳にかける。
「エマ、驚けよー? 俺の新しい友達」
ニヤ、とエマに笑いかけた後に、兵藤は俺にアイコンタクトを送った。止まっていた俺の足はその方向に向かって歩を進める。次第に髪の毛と指だけしか見えなかったそのエマと言われる女性の顔が見えてきた。最初は横顔だけしか見えなくて、その次に長いマツゲが見えた。マツゲのその下のアーモンドの形をした目は蒼い目をしていて、俺は一瞬だけ、その色にくぎ付けになってしまった。
「有沢壱。俺と同じジャパニーズで、最近日本からこっちに来たんだと。正直、俺よりも日本に詳しいぜ」
驚いたような。とりあえず目を見開いて、じーっと俺の方をただただ見つめていた。手に持つ日本語で『日本史B』と書かれたその本は、そういえばどこかの文書店で見たことあるなーとか、そんな事はどうでもよかった。ただ目を逸らさずに互いを見ていた。
沈黙を破ったのは、エマだった。
「ほんとに日本人?」
「え……?」
思いがけない一言に、俺は拍子抜けした。
「明とは全然違って見えるね、どして?」
「どうしてってもなー……」
兵藤が困ったように眉を吊り上げた。
「この通りだ、不思議ちゃんって奴なんだ、コイツ」
日本語で俺に耳打ちした兵藤は、なんだか面倒臭そうにそう訴えた。『不思議ちゃん?』と、聞きなれない日本語に興味を示しながら、エマはその金髪の細い髪の毛を掻き撫でた。
「綺麗な子」
エマが俺を見ながらそう呟いた。言いたいのは俺の方だったのに。
「……」
海見たいに深くて、空みたいに鮮やかな色。その色は妙に懐かしくて、目に吸い付いてくるようで。
正直、目を奪われた。