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第二十七話 歯車は凛として動く

 渓沢先生と別れて数分後たった後、麻衣と弥生は練習から一緒に部活から出てきた。二人は歩きながら今日の練習を振り返って談笑している。

「待っててくれたんだ」

麻衣はベンチで座って待っていた僕に笑顔でそう言って、僕の隣に座った。彼女の吐く息は白く、見ていただけで暖かみが感じられる。外は相当寒くなっていた。

「これから、何か用事とかないよね?」麻衣は僕に話しかける。

「別に、何もないけど?」

「私のお父さんを空港まで迎えに行くんだけど、来る?」

 とうとう麻衣のお父さんが日本に来る、それは彼の計画が最終段階に入り、自分の研究所や資料を消すということだ。つまり、僕や弥生の突然変異はすべてなかったことになる。ということは、二人、否、怜も含めたこのストーリーはすべておとぎ話になる。僕はゴクリと生唾を飲んだ。

「行くよ、忘れたいけど重要なことだから・・」

「わかった」もう麻衣の笑顔は消えていた。

「弥生は行くの?」僕はベンチから背を向けて、少し遠くで話を聞いていた弥生に声を掛けた。

彼女はクルリ回ってと僕の方を向く。

「行くよ!私のお父さんも帰ってくるから」彼女は少し大きな声で返事をする。彼女の顔は麻衣とは違い、とてもいい笑顔だった。

「弥生のお父さんって自衛官じゃなかったっけ?」今度は麻衣に質問する。

「そこを辞めて、今は海外で私のお父さんの手伝いをしているんだ」

 これで何となく計画の構造が分かってきた。麻衣の父が軍人である弥生の父の交流関係を使って軍事施設などの事故を引き起こす。

 遠くに居た弥生がベンチに戻ってくる。

「私、嬉しい。何もかもすべて上手くいってる。これからはこの三人が出会った原因を見なくても済むんだよ。麻衣も嬉しいと思わない?」

「私も嬉しいけど・・」そういって麻衣は肩を落とす。

 麻衣が何に悩んでいるか大体想像が付く、麻衣がこの事件を僕達に伝えて殺そうとしたからだ。

僕は隣に座っていた麻衣の肩を持って強引に引き寄せる。

「大丈夫だよ、麻衣。今に全部おとぎ話になってしまうから」

「ごめん、変なこと言って」弥生はすぐに麻衣に謝った。

「いいよ、これは私の問題だから・・」

彼女はうつむいた顔を上げてまた笑顔になってこう続けた。

「じゃあ、私達の出会い・・もっとロマンチックな物にして」

弥生も笑顔に戻る。

「わかった、麻衣にぴったりな話を用意しといてあげる」

「あんまり、恥ずかしいのはイヤだからね!」

「恥ずかしい方が麻衣にはぴったりだよ」と彼女たちの話に僕が割り込むと、麻衣はベンチを立ち僕に膨れっ面の顔を見せる。

「私、そんなに恥ずかしいことした?」

「したと思うけど」

「じゃあ、エッチな話がいい?」

「イヤ!」弥生は笑顔で麻衣をさらに弄び始める、弄ばれている麻衣の方も笑顔だ。

 こうしてみると彼女達はとても可憐で美しく、そして花束のように色とりどりの個性にあふれていてその一つ一つが凛と佇んで居る。今ここに居る麻衣と弥生だけではない、怜も真由もその一部だ。

 花は一見すると歯車に似ている。彼女達は無意識にその花びらを歯車のように駆動させて今を生きていて、そして僕に今という時間を与えてくれる。すべての美しい歯車の中で最初に動いたのは麻衣だった。麻衣が動いたからこそ、その歯車達は複雑に絡み始め美しい今を生きている。


  

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