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第二十五話 始まりと終わり

 麻衣を起こして僕らはロープウェーで山を下る。眼下には点々と光る麓の町の夜景が広がっていた。

「暗くなっちゃったね」麻衣は景色を見ながら呟く。

「うん、ごめんね」

「別にいいよ、楽しかったし。どこかに泊まっていこうか」

「そんなにお金持ってるの?」

「これでも、助手ですから」

 ロープウェーを降りて、宿探しをする。別にどういうところがいいという訳でもないので、案外早く見つかった。

 宿屋に着いて、僕らは別段何もすることが無いのでテレビを付ける。こんな山奥の田舎でも、テレビは東京と大差ない。

「夏に来れば良かったね、冬だと虫も鳴かないし、葉も落ち葉ばかりで味気ない」

「温泉が気持ちいいじゃん」

「確かに、夏に露天風呂なんかに行くと、お湯よりも地面のほうが熱かったりするしね」

彼女は笑って、「そんなことよくあるよね」と言って少し寂しい顔をする。

「夏になったらまた行けるかな」

「勿論だよ」

「なにがあっても、君が望むなら」

 そういって二人で見詰め合っていたら、急にテレビが騒がしくなった。僕はすこし顔を赤らめてテレビを見る。テレビの内容はニュース速報でロシアの大学の生物研究室で事故が起こったと伝えていた。

「始まったんだね、計画」

「うん。でも私たちにはもう関係ないから」

「でも、昨日までずっと働き詰めだったよね、大丈夫なの?投げ出しても」

「後は、私のお父さんが日本に着てやることだから」

「そっか」

「私たちには、私たちなりの日常があるんだから。だからもう辞めるよ、この仕事。普通の学生に戻る。戻って沢山、先輩と恋愛したい、先輩の恋人でいたい」

麻衣は少し下を向いて、初めて会ったあの日のように頬を赤らめてこういった。

「だから、先輩も普通の学生でいて・・・それで、私といっぱい恋愛して」

「ありがとう」

彼女の一途な告白に僕はこの一言しか返せない。返した後、僕の頬に一筋の線が出来る。僕は泣いてしまったのだ。それと同時に僕の背負っていた十字架の重みがすっと取れたような気がしてさらに涙がこぼれた。

 今までは僕の十字架で僕を好いてくれる麻衣や弥生、怜に迷惑をかけていることばかりに目が行っていたが、自分が背負っていた「普通じゃないという十字架」の重さまでは分からなかった。

 だから僕は今日の夕方に彼女の幸せを願って、この話はこれっきりにしてしまおうと彼女に提案したのだ。自分の事はそっちのけで・・・

 でも、僕が彼女にいった言葉をこんな形にして返してくれた。僕はその嬉しさに涙してしまった。


 僕はこれから、生存競争の存在をもみ消して普通のヒトとして生活する。良きパートナーと手を取り合って。でも、もみ消したからといって生存競争がなくなるというわけではない。僕の生活には感じられなくとも自然の法則では僕は淘汰される存在だ。だが、彼女が傍に居れさえすれば、この生存競争を生き残ることが出来るって僕は思う。
















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