第二十二話 疲労
何時もどおりバイトを終えて家に帰る。最近は受験が近づいてきたので勉強は以前に比べてとても難しくなっている。バイトと勉強の両立は難しいが、麻衣も計画の準備で忙しいらしい。だから僕が彼女を支えなければならないと思う。
家に帰ると麻衣はぐっすりと寝ていた。食卓にはラップを掛けた食事と資料が散乱していて彼女が忙しく作業していたことが良く分かる。
僕は疲れた体で椅子に座り、食事をしながら彼女の資料を眺め回す。資料はほとんど英文だったが、一つだけ日本語になっている。
「進化の種」資料の一番上にそう書かれていた。何かのレポートだ。製作者は「楠木 柾人」麻衣の父親だろう。僕はそれを読み始める。
「進化はこの地球に生命が生まれてからずっと行われているが、進化をするために重要なのが突然変異である。今年の十月に起こった米軍偵察機による健康被害は米軍偵察機に塗装されていた塗料が剥げ落ち、その物質をある特定の血液型の生物が摂取することによって発生したものである。この物質は少量でも遺伝子を破壊して不安定させ、突然変異を誘発させる。それが新たな進化の引き金となる」
ここまで読んでみたが、あとは訳の分からない数式と二重らせん構造の図が続いていた。もう寝よう、今日は疲れた。麻衣の作った食事にまたラップを掛けて、部屋の電気を消した後、僕は布団に潜り込んだ。
しばらく経ってから、麻衣は僕が居ることに気がついたのか目を覚ます。
「帰ってきてたんだ、ごめんね起きて居られなくて」
「いいよ、麻衣だって忙しいんだから」
「明日は休んだら?朝から晩まで働き詰めで辛いでしょ」
「いいよ、麻衣も休めないんだから」
「私、元気にしてる先輩のほうが好きだから」
彼女の寂しそうな顔がナツメ電球に照らされている。
「わかった。でも明日は麻衣も休んで」
「うん・・布団入ってもいい?」
「いいよ」
麻衣は僕の布団に入り込む、キスや抱擁とはまたちがった温かみがある。生温いと言ってもいい。彼女の小柄で華奢な体が僕の冷え切った体を暖めた。