第二十一話 選択
「あなたのこと好き、だから付き合って」
校舎裏の出口で僕は弥生の告白に戸惑っていた。
予想は出来ていた、こんな事がいつか起こるだろうと、麻衣か弥生を選んで生存競争をすることになる、それが突然変異を起こした僕に課せられた運命なのだ。それに麻衣か弥生を選ぶと言うことは、彼女の好きという思いをぶち壊しにもする。残酷だ。だが、僕は今、彼女に本当の思いを伝えなければならない。弥生の澄んだ目に僕の顔が映っていた。
「ごめん、麻衣を裏切れないんだ」僕ははっきりと答えた。
「私のこと嫌い?」彼女はそういって眉をしかめる。
「そんなことない!好きだけど・・だめなんだ」
そう、と呟いて彼女は僕に背を向ける。
「これが自然なのかもね。麻衣を選ぶのが、でも私はあなたの事が好き。なんとなくだけれど、そう思っていれば淘汰されないような気がするの」
彼女はそういって、去っていった。僕は去り際の彼女に大声で叫んだ。
「ありがとう、うれしかった」と
***
次の日の朝のHR、先生から転校生の紹介があった。弥生だ。昨日、学校に転校したらしい。弥生は先生の紹介を受けて教壇に立つ。
「今日からこの学校に来ました九条 弥生です」
麻衣にも引けを取らない、否、麻衣の上をいく美少女の登場にクラスは沸き立った。
だが、僕は彼女の登場を喜べなかった。彼女は僕を追ってこの学校に来た。なのに僕はあんな風にハッキリと彼女を振ってしまった。こうしてみると昨日の後悔をひきずっている。こう嫌な事がある日は決まって僕は屋上に行く。
屋上に行くとそこには以前のように先客も居らず、ただ青空が広がっていた。僕は寝転がりながらそれを只見つめる。
「こんなところに居たんだ」弥生の顔がすっと視界に飛び込む。
「弥生さん・・」僕は驚いたもののそれ以外、何の言葉も口からでない。
それから、彼女は一人ごとのように話始めた。
「女子に囲まれてたんだけど面白くなくなってさ。やっぱり、一匹狼なんだね」
「僕がいるじゃん」
ポロッとまるでテスト用紙に涎を垂らしてしまうようにそんな台詞が口から出た。
「そうだね」彼女はこの言葉に対して何も動揺せず、にこやかに微笑んだ。微笑んだ後、視線を青空に向けた。
「空、好きなの?」と僕は聞く。
「飛行機が好きだから見てるの、地上の人間の喧騒から抜け出して自由に飛んで、それって素晴らしくない?」
「そうだね」
僕も教室で起きてる喧騒を逃れるために此処に来た。だから彼女の気持ちは良くわかる。
そのまま僕らはずっと無言で空を見続けた。
何気ないそこでの彼女との会話は僕の中の後悔や彼女との溝を消してくれた。まるで、それが全部あの青空に溶け込んでいくように。