第十七話 好きという記憶
弥生さんと二人で夜を過ごした後、僕ら二人は朝早くから家を出た。僕の服には、まだ弥生さんの気配(さっきまでそこにいたような、否、今もそこにいるような)感じが残っていた。服には暖かみさえ残っていないのに、彼女の温もりが、涎が、あの黒い髪が肩にのっかっているような気がするのだ。
僕らは家に帰って、制服に着替える。毎日の事だけど、麻衣の私生活はとても可愛い。高校一年で、ネクタイに苦戦するところとか、朝に冷えきったブレザーを着て寒がっている姿とか、それを思うと僕は堪らなくなる。
僕は彼女が制服を着替えている最中に後ろから抱き締める。冷えきった体に彼女の暖かい熱とブレザーのあのひんやりとした冷たさを同時に感じる。「先輩?」と彼女は疑問系で呟いて麻衣は制服を着替える手を止めた。「麻衣、好きだ。愛している」自然とでた言葉だけど、僕は初めて彼女に「好き」といえた、意志表示が出来た。弥生には僕が好きかどうか考えさせたのに、いつもそばにいる麻衣には今までずっとそんな簡単な事が言えなかったのだ。
「私も先輩の事好き。だからもう一度・・」彼女はもうその先を言わなかった、否、言う必要がなかった。
僕は腕の中で麻衣を一回転させ「キス」をする。深く長く。お互いを求めあうように舌を動かす。
それから何分経っただろう、彼女を愛撫する道具が唇だけでなく、体全体になったのは。彼女の頬はいままで以上に赤く染まり、顔は骨までとろけたように快楽に満ち満ちていた。だが、彼女は絶頂に向かう体をはたと止める。僕も彼女に合わせて動きを止めた。
「先輩、私達にはまだやるべきことが残っていますよ。だから、お預け!」
「うん、お預け」
僕ら二人がやるべきこと、もうそれは決まっていた。
僕と彼女が一緒になるために、彼女の研究や他の資料を丸ごと消してしまうこと。すべてなかったことにすること。
「ひとつ、聞いてもいい?」
「なに?」
「資料やデータを消しても、すべてなかったことにしても、僕と君の出会いは覚えていてくれるよね」
「うん、ここに」
彼女は自分の胸を指差してこう続けた。
「年月と共に記憶がすり減って劣化しても、私は絶対に忘れない」
「ありがとう、麻衣」
僕はそう言って彼女をひしと抱き締めた。
今回は少し過激ですが、「やるべきこと」の前夜祭です。
これから、弥生や由香、真由や怜の思惑が複雑に交差していきます。




