第十三話 恋敵の一匹狼
弥生さんがこんな人だと僕は思っていなかった。
彼女と僕は同じ事情だ。だからもう少し二人きりで話していたい。僕は麻衣に目線を向けて
「麻衣、この部屋を出ていってくれないか」と言った。
麻衣は「嫌、いやだよ」と言いった。彼女の目からは涙が流れている。
「僕と彼女は同じ事情なんだ。もう少し話したいんだ」
「だから、嫌なの。あなたが先輩に取られそうな気がして。それが自然の摂理だっていわれたら逆らえないじゃないですか」
「とにかく出ていってくれ」
僕は半分自棄になっていう。
彼女はゆっくりとドアを閉めた。
***
麻衣が出ていった後、弥生は銃を握ったまま、ありがとうと言った。
「僕に告白しているのに、銃を持っているのはおかしいよ」
彼女は少し微笑んで、そうね、と呟いた。
「その銃を分解して僕に渡して」
弥生は分解を始める。分解も組立と同じ大体同じ時間で終わる。
分解したあと、彼女はホッとため息をつく。
「じゃあ、もう一度言うね、彼女と別れて私と付き合ってそれが、自然なの」
「自然か・・キミも僕も自然に振り回されてここまで来てるよね」
「なにが言いたいの?」
「僕と麻衣は自然に振り回されていない。好きだと思うから付き合ってるって。彼女はそういったんだ」
僕はすこし溜めてから、「君は僕の事、好き?」と聞く。
彼女も少し考える、しばらくしてから「考えておく」といって、
僕も「それがいいよ」と彼女に諭した。
「好きになったら、必ず伝えにいく・・」
「わかった、待ってるよ」
僕は自然に振り回されていないと言ってしまったが、これが自然なのかも知れない。
強いから、頭が良いから、美しいから・・・人々には様々な利点がある。
だが、それを後世に伝えるためだけでは、人間にはとても不十分だ。だからこそ人々は人を好きになるというスパイスのようなものを手に入れたのではないかと僕はそう思う。
それこそが、人間という生き物にとって自然なのだ。
銃を引き出しにしまうと、弥生は少し下を向いて喋り始める。
「麻衣とは、どうなの?」
「まだ、キスさえ出来てませんし、手を繋ぐ事さえしてません」
「飽きたりしない?」
「いや、僕がいけないんだと思っています」
「積極的じゃないんだ」
彼女は少し笑みを浮かべて喋る。
「それとも、まだ彼女のこと信じられない?」
「それは、多分無いです。同居してますから・・」
どっ同居!?と彼女は驚く。
「監視名目ですが・・」
「そっか、それだけ麻衣のことを信じられるんだ・・」
彼女はまた、下を向く。
「私ね、ずっと一人だった。子供の頃からずっと。親の影響もあって、自分を磨こうとして努力してたから、だから中学の時は一匹狼で部活の新入生に全く慕われなかったの、同じ学年の人に後輩がどんどん集まっていくのに私には誰も来ない。でも、麻衣は一人で私のところに来てくれた」
「麻衣がそんなことを」
「私も馬鹿だから、彼女を鬱陶しく思って振り払おうと何度もきつい事やらせているのに、涙を拭って私に教えて、って頼むんだ・・・」
彼女の目から、涙がポロリと落ちる。
「それって、きっと彼女が私を信じていたからだろうと思う。だから私、麻衣のこと信じてみようと思う」
そういった後、彼女の涙は夕立の始まりようにポロポロと落ちていった。
「大丈夫ですよ、麻衣なら、きっと許してくれますよ」
僕はそういって、ハンカチとティッシュを手渡す。
もしかしたら、この日の出来事は麻衣が彼女を裏切ったことによる、彼女の強がりな性格の暴走、
いや、彼女の中の狼が暴れだしたのかもしれない。
突然変異という、重い現実を背負い、さらに麻衣から裏切られたことへの絶望。
彼女は本当に一匹狼のような存在になって、最後に麻衣の彼氏である僕に目をつけたのだ。
僕が彼女と同じ立場なら、僕もそうしていたかもしれない。
プロローグや、第一話を改稿しました。
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