脱力のリュー
ユマ……本名、優馬。東京の美容室の階段で転落して転生。
リュー……本名リュフォイエル。大きな屋敷で一人で暮らしている美貌の貴族。
フォルメダ……魔術師でリューの友人。明るい性格。
シャンス……リュー屋敷の執事。
ヴィテー……リューの愛馬。かわいい。
目を覚ますと、美男子が僕の頭を撫でながら心配そうに顔を覗き込んでいる。
「起きたのか? 体はどうだ。どこか痛いか?」
今までになく声が優しい。というか、力がない。
「ここは?」
「ベッドに運んだ。あなたは今熱がある。休養が必要だ。何か食べられそうか?」
そうか、気のせいじゃなくて本当に熱があったんだ。そりゃこんな状況になったら熱ぐらい出るよ。
「なんだかあなたまで元気がないようですが?」
するとリューは僕の手を両手で包み、そこに額をくっつけて大きく息を吐いた。
「私を……置いていかないでくれ、ハニー……」
いやいや、大げさすぎる。ちょっと疲れただけだし。
「せっかく出会えたのに、一日だけの夢なのではと思ったら……」
「まあ、僕はあまり体力がないですからね」
僕って本来、青空の下歩き回ったり乗馬体験するようなキャラじゃないからね。
「わかった、今後は無理させないと誓う。あなたも自分を大事にしてほしい」
「色々誓ってくださるんですね」
「あなたと出会ってしまったから、もう一人の世界には戻れない。この先もし失うようなことがあったら、再び立ち上がれる自信がない……」
僕より圧倒的にぐったりしているじゃないか。心配させたらしい。消えてなくなりそうなのはどう見ても彼の方だ。
「別に死んだりしませんから。あなたも少し寝たほうがいいんじゃないですか?」
リューは顔を上げると、布団をめくって入ろうとする。いや、ここに寝ろっていう意味じゃない。
「あの、ご自分のベッドに……」
「これが私のベッドだ」
なんでそこに僕を運んだ。待てよ、まさかこれから毎晩一緒に寝るのか……?
「今夜は……、一緒にいさせてくれ」
良かった、『今日は』ってことか。倒れる前、同意なく触るなと叱ったことを思い出したが、今の彼にそれはさすがに言いづらかった。僕だって別に鬼じゃない。
横になった彼にまた抱きしめられるのを覚悟したが、そうではなく僕の胸に頭を預けてぎゅっと縮こまっている。
「あの、リュー。大丈夫ですから」
「……」
昼間は僕と初夜を迎えようと浮かれていた人が、今はすっかり小さくなっている。少し震えてもいるだろうか?
「リュー、寒いんですか?」
「寒くは……、いや寒い。気がしてきた」
「……」
また彼の小さな嘘が垣間見えた。まあ、少しぐらいは目をつぶってやってもいいか。ゆっくりと腕を伸ばし、リューの頭をふわりと抱いてみた。小さな子供にするように。
するとリューの強張らせていた体から、力が抜けていったのを感じた。
「ユマ、ずっと一緒にいてくれ……」
少しして、小さな寝息を立て始める。
今日行動を共にしてみて、リューは親切ではあるし一応思いやりもあることはわかった。こんなふうに子供みたいなところもある。それは、僕だから心を許して見せてくれたのかもしれない。見た印象はむしろ、冷たくて不愛想な人とも取られるだろう。その性格とか行動の癖、さっきはぐらかされた過去の話に関係があるのかな。
そんなことを考えながら彼の髪に触れていたら、僕も再び眠りに落ちてしまった。




