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契約書はよく読めとあれほど!  作者: 宇居 リンリ


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屋敷で過ごす夜

ユマ……本名、優馬。東京の美容室の階段で転落して転生。

リュー……本名リュフォイエル。大きな屋敷で一人で暮らしている美貌の貴族。

フォルメダ……魔術師でリューの友人。明るい性格。

シャンス……リュー屋敷の執事。

ヴィテー……リューの愛馬。かわいい。

 さっきとは別の広い部屋に通された。アンティーク調の美しい木目の内装と家具で統一されていて、ここも上品で趣味が良い部屋だった。

「ユマ、彼は執事のシャンスだ。何か困ったことがあったら彼を頼ってくれ」

 今まさにめちゃくちゃ困ってるし、その人は絶対助けてくれないと思うな……。

 ただ、逆らったら怖いということも既に身をもって知っている。

「どうぞ宜しく……」

 形だけの挨拶をする。

「こちらこそ、奥様」

「お、奥っ……?!」

「ご主人様、奥様。私もこの度のこと大変嬉しく思います。実はかねがね、ご主人様には伴侶が必要だと思っておりました。これまでずっとご苦労をなさり、お一人で乗り越えてこられた。神は見ておられました」

 そういうと彼は感極まってまた涙目になっている。

「ありがとうシャンス、君にも心配をかけていたんだな。どうかこれからも宜しく頼む」

 リューが立ち上がって手を伸ばすと、シャンスもそれを両手で握る。

 蚊帳の外の僕は、黙ってお茶をやけ飲みしている。

 どうやら二人は長年の付き合いらしい。今の僕はあんまり興味持てないけど。

 本当にここで暮らしていくのか? 知らないやつと[[rb:夫夫 > ふうふ]]になって? ここで老いていくの? 毎日何をして?

「ユマ、大丈夫か? 少ししたら晩餐だから、それまでゆっくり過ごそう。シャンス、ありがとう」

 そういうとシャンスさんは僕にじろりと一瞬の目線を投げてから下がっていった。

 睨むでも笑うでもないその表情は、「傷つけたら許さない」という宣言にも見えた。この屋敷で一番強いのはこの人かもしれない。


「彼はここの執事になって長いんですか?」

「一年近く経つ」

 短っ。それであんなに感極まってたの?

「……その前はなにを?」

「ずっとこの家の使用人だった、彼の父の代から。その父親が一年前亡くなった後、代わって執事になってもらった。家令でもある」

 ああ、そういうこと。執事に昇進したのが一年前ってことね。共感性強すぎなのかと思った。使用人のなかで一番偉いって覚えておこう。

「あなたは苦労人ですって?」

「どうということはない。これからはあなたもいるし、何も怖くない」

 なんだ、自分の過去のことは話したくないのか。別にいいけど、人の運命勝手に変えておいて少し勝手じゃないか?

「そのことですが。何で私とあなたが結婚したことになってるんですか? どうして言葉の通じない初対面の人間と結婚できるんです?」

「なぜって、あなたが運命の人だとわかったからだ。あなたの心が伝わった」

「だからその『わかった』ってなんなんです? 勝手に思い込んだだけですよね」

 顔を覆って肩を落とし、ため息をつく。この人と話しても押し問答にしかならない。諦めてこの人生が終わるのを待つしかないんだろうか。

「ハニー」

 いつの間にか隣に来ていたリューが肩を抱く。

「うわっ」

「不安な気持ちはわかる。知らない土地に来て新生活をするんだ、当然のことだ。だが私もいるから心配ない。どんな時でもあなたを支えるから。つらい気持ちも全て私に話してほしい。私も共に担って、その悲しみを半分にしたいんだ」

 素敵な言葉だけど、それを他人の僕に向かって言っていることが悲しみの原因なんだよね。なんでわからない? なんかもう、体に力が入らない。

「……リューは、人と会話するのが苦手ですか?」

「えっ、なんで分かっ……、私の言葉が足りなかったか?」

 なるほど、この人やっぱり普段からコミュニケーションが苦手で、本人もその自覚があるんだ。言葉の通じない僕にかえってシンパシーを感じちゃったというところかな。それで本人なりに、僕には気持ちを伝えなければと必死なんだろうか。肝心のところからすれ違ってはいるけれど。

「リュー。俺たち、これからたくさん話し合いが必要だと思います。まず始めに、急に肩を抱くのはやめてください」

「……だめなのか」

 悲しそうな顔でするすると腕を引っ込めた。

「あなたに感謝はしているけれど、まずはお互いを理解しないと。体に触れるのはそれまで禁止です」

「何っ? それは初夜は除いての話か?」

「初……」

 初夜って……、今夜僕を抱くつもりだったの!? まじで熱が出そうだ。本当に分かり合える時なんて来るんだろうか。なんとかしてこいつと意思疎通を図らないと、このままでは僕の貞操が危うい……。

「あのですね……」

 言いたいことがあるのに、どうにもそこから言葉が出てこない。頭が重くなったような感覚で、もう……、そのままリューの膝に顔を埋めてしまった。

「……ハ、ハニー! 言ってることとやってることが違うような! どうしたんだ、急に気が変わったのか? 」

「……」

「ん? ハニー? どうした……?」

 少しずつリューの声が遠くなっていく。

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