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契約書はよく読めとあれほど!  作者: 宇居 リンリ


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リュー運命の一日(2)

ユマ……本名、優馬。東京の美容室の階段で転落して転生。

リュー……本名リュフォイエル。大きな屋敷で一人で暮らしている美貌の貴族。

フォルメダ……魔術師でリューの友人。明るい性格。

シャンス……リュー屋敷の執事。

ヴィテー……リューの愛馬。かわいい。

 心を落ち着けて、馬に乗せようと手を取る。細い手足はしなやかで、羽根のように体重が軽いのがわかる。

 初めて触れたその手は、想像をはるかに越えて柔らかく繊細だった。

 こんな手を持つ男がいるのか。この手は剣を持ったことも農具を持ったこともないだろう。ということはつまり、彼はどこかの国の高貴な身分であり、たまたま近くを通った際、暴漢に襲われ、私と出会ったということになる。すべてが運命だったのだ。私は今日に限って珍しく休日を取り、ラウの実を持って、この時間、ここにいた。これを偶然ということは誰にもできまい。


 自分も馬に乗ると、妻の髪は目もくらむような香しさだ。香水なのか化粧品なのか、とても高価な香りがする。この髪や肌は相当手がかけられているはずだ。高貴な身分どころか王族かもしれないな。であればそれに見合うよう、私も身を律して、仕事にもより一層邁進し、……ああすごくいい匂いだ。

 妻のウエストに腕を回すと、とても華奢で儚い。大事に扱わねば。私の生涯の宝物だ。


 家に着いてもその手を離すことなど不可能である。少しでも外気に触れさせたくない。ハニー、離さないよ。

「お帰りなさいませ、リュフォイエル様」

「シャンス、婚姻届を用紙してほしい」

「なんですって? いつの間にそんなお相手が? ……もしかして、そのお方ですか?」

「そうだ。ラウの誓いは済ませた。それと茶と菓子も頼めるか、異国の人でも口に合いそうなものを」

「なんとめでたい……。まさかリュフォイエル様にこんな日が来ようとは。……すぐにお持ちします」

 気が急いているのが伝わったようで、涙目のシャンスは下がっていく。


 部屋に入ると、何とも優雅に座って上品にお茶を飲んでは、愛情深い微笑みを向けてくれる。か弱いようでいて、凛とした気高さがある。これから毎日、愛する妻と過ごしていくのか。この花のような笑顔は、いくらでも見ていられる。

 シャンスが書類の説明をし、ペンを渡す。

 これを書いたら、魔術屋に行かねば。まず最初に聞きたいのは、あなたの名だ。そして、その唇が私の名を呼ぶのを見たい。ていうか、隣に座れば良かった! もう夫婦なのだし。距離が遠すぎて無理かもしれない。

 ん、急にサインしたな。おや、シャンスは? ああ、いたか。

「シャンス、このあとすぐ魔術屋に行きたいから、これの提出は頼めるか?それと晩餐に少し手をかけてくれたら嬉しい」

「責任をもってお預かり致します。夕食の件も伝えておきましょう。この度は誠におめでとうございます」

 シャンスはまた涙目になっている。


 では、妻よ。私たちの会話を可能にしてもらおう。これからたくさん気持ちを伝え合いたいからな。

 手を繋ぐのを忘れないでくれ。私たちはもう二度と離れない。これから幸福であなたをいっぱいにして逃がさないよ。

 妻は多分、自分一人で馬に乗ったことがない。本当なら馬車に乗せたいところだが、これだけは少しでも早く済ませたいのでまた馬で行くことにするが許してくれ。


「フォルメダ」

「やあ、リュー。そちらは?」

「妻だ。先ほどラウの誓いをして婚姻届を出した」

「へっ、そうなの? それはその、おめでとう……、随分突然の報告だね」

「それで妻に……」

「あ、言葉が違うんだね。あれ、でも誓いと届けは済ませたって……まあとにかく薬はあるよ。彼がこれを飲んだら、最初に君が話しかけてね」

「ああ」

 これでやっと妻と話せる。あなたの名前を聞かせてくれ。名前を呼んで、愛を囁いてくれ。

 おや、緊張している? ほら、手伝おう。最愛の人、声を聞かせて。

「ゴホゴホッ……!」

「大丈夫か」


 それから何を話しただろうか。とにかく早く、その愛しい名前を聞きたかった。

 ユマ。それが私の妻の名だ。なんと異国的で神秘的な響き。世界で一番美しい名。

 くるくると表情を変えるのがかわいらしくて、今まで分からなかった彼の感情が見てとれるのがとても嬉しい。感動して、今すぐキスだけでもと思いその顔に近づいたが、恥じらってだめだった。最初のキスなのにフォルメダのいる前ではさすがにムードがなかった。これは私が悪い、触れ合いは夜まで待たねば。

 店を出ると、街の人々が続々と祝福してくれた。フォルメダが、熱い初夜を迎えられるという虹糸蝶の鱗粉を撒く。世界が輝いて見える。私にも生まれてきた意味があったのだ。


 さて、やっと用事が終わった。早く帰って二人きりになって、まずは色々と語り合いたい。そうだ、今度は絶対隣に座らねばならない。

 それにしてもユマの髪は香しい。この髪に顔を埋めたい。そうだな、後ろから抱きしめて、この細く悩ましい腰を……。

 ああ、ヴィテー。早く二人を愛の巣に帰らせてくれ。

「帰りたいーーーーっ」

 私もだよ、ユマ! 愛しい人、もうすぐ着くから。

「ここはもううちの領地だ、ハニー」

「ハニーやめろーーーっっ!!」

 どうやら私の妻はかなりのシャイらしい。だがそこがたまらなくかわいい。徐々に慣れていってくれれば構わない。

 愛する妻よ、ずっと一緒だ。

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