リューが誕生日について思うこと
食事と入浴を済ませ、読書の時間を過ごしていると、もはや当然のようにリューが現れて膝の上に頭を乗せる。意地悪して机で読むこともできるが、これも別に気にならなくなっている。いや、気にならないというよりは……。
「リュー、誕生日はいつも何かお祝いをしますか?」
「いや、特になにもしない。たまたま気づいた人がいればお祝いを言われるくらいだ」
「そうですか。誕生日に欲しいものとか、したいこととかないんですか」
「今年の贈り物はもうもらったじゃないか。欲しいのはユマだけだ。ずっとそばにいてくれ」
リューを見下ろすと、すっかりくつろいでいてまたこのまま眠りに落ちそうになっている。リューは目を閉じても美しい。繊細な睫毛、高い鼻梁。髪は外で見るとほぼ金色だが室内の温かい照明で見るとこっくりとしたミルクティー色で、僕の膝に柔らかく落ちている。
「リュー、聞いてもいいでしょうか。あなたはこの家にいつからいるんですか?」
「13歳頃だったと思う。ここに来たのは」
リューは目を閉じたまま、僕の手を探り当てて握る。
「シャンスはその頃からいたんだ。私は子供の頃から可愛げがなかったが、気にせずよく私の遊び相手になってくれたな」
「そうでしたか」
可愛げがないとは言うが、僕の知るリューはとてもかわいい人だ。
「ここはもともと叔父が独りで住んでいた。故郷の母は私を産んで間もなくその負担で亡くなり、ほどなく父も後を追うように倒れた。二人が亡くなったあとここに引き取られたんだ。その数年後叔父も亡くなり、辺境伯の職務とこの領地を継いだ。領地はよく収められてはいたが、引継ぎがなかったから最初は苦労した。近い親戚もいないしな」
「それは寂しかったですね」
これまで頑張ってきたっていうのはそういうことだったのか。比較にならないとは思うけど、バイトしていて誰にも教えてもらえない状況というのは辛いんだよな。それが多くの人の生活がかかっているとなればプレッシャーは段違いだろう。
「両親の記憶も曖昧だし、叔父は独身でいつも多忙で数年しか同居しなかったから、家族や家庭というものがよくわかっていないんじゃないかと、少し自信がないんだ」
握った手をまた握り直される。
「そういう私でも、あなたにだけは絶対に辛い思いをさせたくない。だからこそ、理想的で最高の愛情を注ぎたいんだ。少々重いかもしれないが」
「はい……」
僕もです、と言ってあげられないことが心苦しい。僕さえ、あなたを愛せればいいんだけど。孤独を癒して、安心できる場所を一緒に作ってあげられたら、最高の恩返しになるのに。
「もしかして、誕生日を祝われたことは……」
「ああ、あまり記憶にないな」
「誰かを祝ったことも、ですか?」
「誰かの誕生日を祝って、自分の誕生日も祝ってもらえるかもしれないと期待してしまうのが嫌だからな」
少年リューは、小さな希望を持っては裏切られ続けてきたんだろう。そして、期待しないことを覚えてしまった。きっと子供らしい少年時代を過ごせなかった。
もしかしなくても、この人を救えるのは、僕だけかもしれない。
「今年の誕生日は……、僕でよければ一緒に過ごしましょうか」
「ああ、そうしてくれたら、もう他に何もいらない。最高の誕生日だろうな……」
そこまで話すと、またうたた寝を始めたのか、リズミカルな呼吸の音が聞こえる。
僕がリューを、少なくとも嫌ったり忘れたりしないっていうことぐらいは、解ってもらってもいいかもしれない。突然消えたり裏切ったりはしないっていうことを。僕を失ったら再びは立ち上がれない、って言ってたのはきっと本心なんだろう。自分が今、誰かの命綱となっていることを実感した。
リューの細い髪を、そっと撫でる。安心できるって言うなら、別に僕の膝ぐらい貸してあげなくもない。
わずかに弧を描く唇。彼が本当に眠っているのか、僕は知らない。




