リューのことを知っていく
「はあ……、唇が乾燥するな……」
僕の後ろで何か言っている人がいる。無視してもう少し寝よう。まだ暗い。
ていうか、なんでまた一緒に寝てるんだ。昨夜も風呂上りで自分の部屋にいたら、ああだこうだ説得されて結局リューの部屋に連れてこられた。
「スゥー……」
「あっ、ちょっ、嗅がないでください!」
「おはよう、ハニー。これをすると起きるんだな」
寝起きのリューは少し目元がとろんとしている。
「おはようございます……。今日も早いんですね」
「ああ、念のための巡回だ。ずっとこうしていたいが」
愛おしそうにそっと僕の髪を撫でて答える。
上半身を起こすと、肩、腕、背中、と全体にバランス良く筋肉がついているのが薄着でよく分かる。毎日体を動かしている人はさすがだ。
片手で自分の腕を掴み、もう片方でリューの腕を掴んでみると想像以上に全く別物だった。リューは跳ね上がって驚く。
「なんだ」
「僕の痩せぎすの体とは全然違うなあと」
今まで、服を着こなすには痩せているのが一番だと思っていたけど、リューのような体と並んで立てるかというと正直辞退したい。
「好きなだけ触ってくれ」
リューが覆いかぶさってきて嬉しそうに言う。
「いえ、大丈夫です」
「あ、じゃあ私が触っても良いか?」
「早く退いてください」
リューは全然退かないどころか、突っ張っていた両腕の力を抜き、どさりと僕に倒れ込んでくる。
「ユマぁ……」
「ぐ……重い……潰れます」
「ああ、すまない。ではこれから戦いに出る騎士に、口づけを許してくれないか__」
「だめです」
「ユマは時々すごく返事が早いな……。じゃあ手でいい。それが嫌なら腹の真ん中だ。どっちにキスされたい?」
「えっ……。それだったら……手……ですけど」
するとリューは素早く僕の手を取り、手の甲にキスするとひっくりかえして手のひらにも続ける。一瞬で同じことを逆の手にもした。
「ちょっ……、もう。1回かと……」
「ははっ。嘘は言っていない」
上機嫌で飛び起きて、身支度を整えていく。それをベッドの中からしばらく見ていたけど、家主が仕事に行くのを寝ながら送っていい立場なのかと思い直し、ガウンを纏ってのそりとソファに座った。
「今日はフォルメダが来るな。間違っても体に触らせるなよ。シャンスに待機させてもいい」
「いや、大丈夫ですよ……、とても楽しみにしています」
「慌ただしくてすまない。帰ってきたら好きなだけ体を触っていいから」
「はっ? 頼んでません!」
「行ってくる。あまり根を詰めるなよ」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
僕と話をするためだけに起こしたのか。別におはようが言いたいとかじゃないし、低血圧の僕に毎朝お見送りしろと言われたら正直言って厳しい。でも、黙って出かけられるのと、少しでも会話しておくのとでは、後者のほうが僕も安心する。リューも心配なんだろうし、少しでも安心して出かけられるっていうなら、まあそれでいいか。
ていうか、手にだけどキスされた。僕のハードルはこのままいくとどんどん低くなっていく気がしている。別に触られることぐらいは嫌じゃないし、リューはかっこいいし尊敬できるところもたくさんある。でもきっと、リューが本当に求める好きとは違う。気持ちが追いついてないのに期待させるようなのは後々傷つけると思うし。……考えても仕方ない、まだ頭が重いので日が昇るまで二度寝させてもらおう。
起きて食堂に行くと、リューの言っていた通り朝食はサンドイッチだった。一緒にいるときはもちろん、いない時まで愛情を感じる。




