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契約書はよく読めとあれほど!  作者: 宇居 リンリ


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魔術屋と花束

 サンドイッチがあるのを見つけて、それが食べたいと伝えた。リューはそれを2人分と、他にも何品か注文してくれた。奢られるのも慣れないけど、さっきよりは断然気持ちが楽だった。一緒に消費するものだからだろうか。

「僕、サンドイッチが子供の頃から好物なんです。よく作って食べてました」

「そうなのか。ユマは料理するのが好きなのか?」

「はい、好きです。お菓子を作るのも好きでしたね」

 美容アカウントがあまりにも伸びないので、簡単な料理の資格をいくつか取って料理動画を投稿したこともあった。もちろんそれも伸びなかったけど。

「そうか。うちのキッチンを自由に使えるよう言っておこう」

「ありがとうございます。とても嬉しいです」

 きっと良い気分転換になると思う。

「何か作ったときは私にも味見させてくれ」

「はい。リューは、料理なんかしませんよね?」

「好きだ」

「……リュー。聞いてます?」

「大好きだ。一生離さない」

 そう言って、食べている僕を目を細めて見ている。ああ、今わかった。その表情、怪しんでるわけでも不機嫌なわけでもなかったんだ。きっとその逆だ。そういえば、会ったときから何度かしてた。わかりにくい。


 お腹を満たして店を出ると、聞き覚えのある声がする。

「あっ、リュー。と、ユマも」

「フォルメダ、昨日はありがとう。改めて紹介する、ユマだ」

「こんにちは」

「やあ、改めまして、僕はフォルメダだよ。二人とも、今から店へ戻るところなんだけど寄ってかない? お茶ぐらい出すよ」

 フォルメダは明るくて、僕にも屈託なく話し、警戒心を持たない。大きな瞳、動くたびに美しく揺れる上質なローブ。肩を越したラインで切りそろえられたストレートの髪はやや紫がかってみえる。よく見たらこの人もけっこう美形だった。

 店に着くと、掲げらた看板が読めるようになっていることに気づく。「フォルメダ魔術店」。

「ユマ、彼はこう見えてトップクラスに優秀な魔術師なんだ。困ったときは相談するといい」

 それを聞いたフォルメダはもじもじしながら店の奥に引っ込み、戻ってきてはいそいそと店のカウンターにお茶やらお菓子やらを次々並べてくれた。

 改めて見まわしてみると、店にいくつも置かれているガラス瓶は、全部何かの薬なんだろう。

「フォルメダ、どんな薬があるんですか?」

 彼の目は輝きを増し、一つ一つ説明しだした。このまま放っておけば店の薬を全て説明するだろう。

 その姿を見て、昨日確かフォルメダが「ヒゲを薄くする薬」ができたと言っていたのを思い出した。

 もしかして、魔術を使えば、美容薬とか、元の世界にあったような化粧品とかも作れるのか……?

「フォルメダ、まず最初に教えて欲しいんだけど、魔術ってなに?」

「ああ、そうか。うん、少し違うかもね。僕が使うような魔術っていうのは、専門知識を学んだ人が使える術式だよ。理論や法則に基づいてね。上級者はそれを研究して応用できる。」

「へえ、フォルメダはたくさん勉強したってことですね」

「まあね、小さいころからあらゆる知識を詰め込んできたよ。魔術に魅せられていたからね」

 棚に並んだ本を手に取ってみる。

「なるほど、これらの本も魔術師が使うものなんですね。ええと……ああ、そういうことなのか」

 なんだか大学でやったような数理の世界と共通する考え方を感じる。もちろん内容は全く別だけど、定理や法則に基づいて、数式や図式などを使って効果を予測して、シミュレーションをして……、なるほど、こうやってできているんだ。

 すると、フォルメダが驚いてこちらを観察している。奥でお菓子を摘まんでいたリューもこっちを見ている。

「ユマ、読めるの? 魔術書っていうのは知識ゼロの人がいきなり読めるものじゃないし、その本は店の魔術書のなかでも難易度はトップクラスのものだよ」

「いや、全て理解できるわけじゃないよ。でも別に読むことはできてると思うけど」

「すごい、なんで……。あっ、昨日の薬で、何か副作用でも出たんだろうか……? そうか、ここに来る前、ラウの実を食べたと言ってたな。もしかするとそのせいかもしれない……。今までラウを食べたあとあの薬を飲んだやつなんていなかったから……」

 リューの奇行のせいでちょっとしたバグまで起きているらしい。 

「フォルメダ、つまりユマには魔術の才能がありそうか?」

 リューがお菓子を飲み込んで口を挟んだ。

「うん、そう思うよ」

「頼む、明日からうちに家庭教師に来てくれ」

「え、でも僕、お店あるし……」

 リューはフォルメダの肩にずしりと手を乗せる。

「だったら、これを機に店を畳んで住み込みにするか?」

「うぐ……、じゃあ、週1回でいい?」

 リューがこっちを見る。

「お願いします!」

 僕は二人に向かって深々と頭を下げた。

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