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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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63 見くびる、ということ

 剣は、銀色の光を放っていた。重く淀んだ銀色で、明らかに魔剣だ。

 そう見て取った瞬間、俺はヴァーツァの前に立ち塞がっていた。

 バタイユが軽く舌打ちをする。


「だから言ったろ。僕が切りつけたいのは君じゃなくて、兄さんだ。邪魔をするな」

「ヴァーツァに手を出させはしない」

「なんてものわかりが悪いんだろ」

バタイユは盛大な溜息をついてみせた。

「完璧に治癒できるって言ったろ? 聞いていなかったのか」

「それでも、ヴァーツァが痛い思いをするのはいやだ!」

悲鳴のような声が迸った。

「そもそもなんで君は、そんなにアンリ陛下を警戒するのか。そして……」

 ためらった。でも、問い質さずにはいられない。

「そして、俺なら大丈夫なのか」


 バタイユの目が丸くなった。


「決まってる。陛下は危険だ。兄さんを本気で愛している」

「お、お、俺だって、ヴァーツァのこと……」

 思わずどもってしまった。頬がかっと熱くなる。

「はいはい。兄さんが軽薄で移り気だってことはよく知ってるよ。自覚することだ。君には何の取り柄もないし、魅力もない。アンリ陛下が兄さんと会うのを邪魔するだけの技量さえもなかったわけだけどね」


 いったい、俺の立場はなんだったのだろう。

 兄を愛するバタイユにとって、アンリ陛下は危険人物だけど、俺は取るに足らない、ということだろうか。

 わかってはいたけど、ひどく悲しい。


 バタイユの顔が真顔になった。無遠慮に俺を押しのける。魔剣を手にしたまま、彼はヴァーツァと向き合った。

「わかっているね、兄さん。アンリ陛下は国王だ。兄さんと結ばれることは、永遠にない。神がお許しにならない。陛下が無茶を働き、兄さんが地獄に落ちるのを、僕は見過ごすわけにはいかない」

「バタイユ、これだけはいっておく。お前はシグを見くびっている」

ヴァーツァが応じる。


 はっとした。

 けれど、バタイユは肩を竦めただけだ。


「それから、アンリとはそういう関係ではない。けれど、お前が望むなら、」

「わかってくれると思ったよ」


 バタイユが剣を引いた。腰だめの位置に構える。


「ちょっと待って! なぜ? なぜ、そこまでして……ヴァーツァ!」

 泣き叫ぶ俺に、ヴァーツァが瞳を向けた。紫の瞳は、山奥の湖水のように澄んでいた。

「覚えているか、シグ。バタイユは不死(アンデッド)だ。けれどそれは、本来なら俺の属性だった。白魔法の使い手でありながら、バタイユは、俺の(ごう)を担ってしまったんだよ。少しでもこの子の苦痛が和らげることができるのなら、しばらくの間、柩に入れられ、人の世から隠されることなど、何ほどのことでもない。俺は、この子の思う通りにしてやりたい」


 そうだった。前に聞いたことがある。

 ヴァーツァとバタイユは双子だ。ヴァーツァの属性は黒魔法で、バタイユは白魔法だ。そして、不死(アンデッド)は、黒魔法に課せられることが多い。

 けれど、母親の胎内にいた時、死なないという属性は、弟のバタイユに転化されてしまった。白魔法の使い手であるバタイユに。

 そのことは、ヴァーツァの中に、強いトラウマとして残った。弟に、不死という過酷な宿命を強いてしまったことが。


 「違う! それは違う!」

あの時と同じように俺は叫んだ。なんとかして、ヴァーツァの罪悪感を払拭したい。彼にも、自分の幸せを求めて欲しい。

「君には何の罪もない。最初から君は君なんだ!」


「ああ、もう、ごちゃごちゃうるさい。兄さん、覚悟はいいね?」

 バタイユが剣を握り直した。静かにヴァーツァが目を閉じる。


 頭が真っ白になった。

 たったひとつ、自分にできることは……。


「アイン イーヒィ アン アジン」

 バタイユは悪霊ではない。むしろヴァーツァを守ろうとしている。

「アイン イーヒィ アン アジン」

 前はできなかった。俺の呪文は、バタイユに簡単にねじ伏せられてしまった。

「アイン イーヒィ アン アジン」

 けど、後には引けない。俺は、ヴァーツァをひどい目に遭わせたくない。愛する人の苦しむ姿を見たくない。


 「くそっ、エクソシスト(シグモント)に負けるなんて」

バタイユの手から、ぽろりと剣が落ちた。






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