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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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60 ゾンビ兵

「ただいまお前を召喚したのはこの俺だ。お前は、俺の命令に服従するな?」

ヴァーツァが問う。

「御意」

 兵士は面頬(めんぼお)をつけており、その表情は窺い知ることはできない。

「お前はゾンビだ。ゾンビは、自分を蘇らせたネクロマンサーの命令に、完全に従う。つまりお前は、俺に逆らうことができない」


 冷酷な言い方だった。紫の瞳はすっかり赤に変わってしまっている。


「最初に問う。戦闘当時、俺は、馬を召喚しなかった。その馬は、どうした」

「生きた馬を」


「なるほど、そういうことか」

ヴァーツァがつぶやいた。

「俺は、馬はゾンビ化しなかった。けれど、ゾンビの中には賢い奴がいて……ま、ゾンビだからな。単なる偶然だったのかもしれないが……()()()()に騎乗した奴がいたのだ。馬は、恐らく騎手を失い、その辺を彷徨っていたのだろう。今、騎手と一緒に召喚されたということは、気の毒に、その馬も、結局は戦死したようだが」


 ヴァーツァは再び、死んだ兵士に向き直った。

「君は生前、騎兵だったのだろう?」

 その声から厳めしさが消えた。代わって、幽かな哀愁が感じられる。身を切るような哀しみと、そして共感。

「騎兵はわが誇り、一族の(ほまれ)

 ゾンビとなった兵士が応える。言葉になまりがある。敵の蛮族は、騎馬軍団で有名だった。


 ヴァーツァが俺を振り返った。

「シグ、君の疑問は解けたろう? 騎兵は、アンリの兵士だけではなかったということだ」


 ヴァーツァの背中の傷の形状から、彼が上、もしくは同じ高さから斬りつけられたことは間違いない。当時彼は、馬に乗っていた。そして、彼の周囲にいた騎馬兵は、アンリ殿下の兵士だけ。

 そう思っていた。

 まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()


 だが、まだ納得できない。


「戦闘で、彼は貴方を斬りつけた。けれど、彼は貴方に召喚されたゾンビでした。貴方に絶対服従だったはずです」

 苦い微笑みを、ヴァーツァが浮かべた。

「ゾンビ達の中には、戦闘に不慣れな者もいる。また、蘇ったばかりで、体を意のままに動かせなかった者もいた。そうした兵士たちは、自分で自分の身体をうまく操ることができず、予想もつかない行動をとってしまう。この兵士も、その一人だろう」


 なんてことだ。

 味方のゾンビが、誤って襲った、なんて。

 俺のヴァーツァを。

 ふとヴァーツァが瞳をそらせた。


「俺にも油断はあった。それで、背後からの奇襲を許してしまった」

 やはり、背中を斬られたことにこだわっている。

「普段なら、そういうことは織り込み済みだ。ゾンビ共の習性はよく理解している。だがあの時は、アンリ殿下の軍の再編がなかなか進まず、切羽詰まっていた。俺には余裕がなかった」

「貴方は何も悪くない。貴方は最初から最後まで勇敢でした」


 彼の勇気を褒め称えたいと思った。その為なら、なんだってする。

 少しだけ、彼の瞳の赤が薄らいだ気がする。


「ありがとう、シグ。騎馬民族のこの兵士は、生前から馬に執着していた。ゾンビとして蘇った彼は、戦場を彷徨っていた生きた馬を捕まえ、跨った。そのことが、君の推理を誤った方向に導いてしまったのだ」


 たとえ味方であっても、それが故意でなかったとしても、そして時間と訓練の不足からくる必然であったとしても。

 俺は、ヴァーツァを傷つけた者を許すことができない。

 けれど、それがアンリ陛下の命令じゃなくてよかった。だってヴァーツァは陛下を心から信頼し、深い友情を抱いている。彼が傷つくことがなくて、本当によかった。

 そこまで考えて、全身が震えた。


「僕はなんてことを……。ずっと、アンリ陛下に疑いをかけていたなんて! しかもあなたの忠誠心に水を差すことまでしてしまった!」

「気にすることはない、君はただ、論理を組み立てただけだから。冷静に推理しただけだ」

「でも……」


 俺の推理は誤りだった。それどころか、あろうことか、ヴァーツァ殺害未遂の疑いを、国王陛下に……。

 その時だった。

 不穏な気配を感じた。普通、ゾンビから悪意を感じることはない。彼らはすでに死んでいるのだから。


 「ヴァーツァ、危ない!」

 俺は彼を突き飛ばした。

 面頬を被ったゾンビが襲い掛かって来る。

 右肩の辺りに、熱い痛みを感じた。

「シグ!」

ヴァーツァが叫んでいるのが聞こえる。彼を、安心させなきゃ。

「だいじょ……」

激痛に、俺は意識を手放した。




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