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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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6 廃村


 そういうわけで、俺はたった一人、エシェック村を訪れた。


 ジョアンには軍の任務があるので、王都を離れられない。代わりに彼は通行証をくれ、馬と路銀を貸してくれた。彼にも生活があるし、あんまり裕福じゃないのは知っているので金は要らないと言ったのだが、どうしても持って行けと押しつけられた。

 ジョアンにはこういうところがある。彼は昔、修道院を飛び出した俺を自分のいた軍に迎え入れてくれた。とても面倒見がいいのだ。

 でもなぜか、他の将校らは、そうは思っていなかったようだった。俺だけが、彼の特別扱いだと言い放ったやつもいる。

 ジョアンの良さを理解していないのが悔しかった。軍を離れる時に、そいつをぶん殴ってやったが、あれはいい気分だった。



 エシェック村は閑散としてた。

 というのは穏やかな言い方で、ほぼ廃村となっていた。家や建物は壊れ、人の気配はない。

 蛮族の進入に対し、アンリ殿下の采配でペシスゥス軍は大勝利を収めたと伝わっている。けれど、村自体は消滅してしまったようだ。


「ええと。どうしようかな」

 声に出して言ってみた。もちろん、返事はない。


 ジョアンの話では、仮にも未来の王を救った英雄の遺体だ、村のどこかでカルダンヌ公の柩を保管しているのだろう、ということだった。

 つまり、公の遺体が行方不明というのは間違いで、ただ、戦後の混乱の中で、一時的に所在がわからなくなってしまっただけ。


 でもそれ、どうだろうな。


 たとえば、絶対あってはならないことだけど、ジョアンにもしものことがあったら、俺は絶対、そばを離れない。ジョアンだって俺が死んだら、意地でも死骸を首都へ持ち帰ろうとするだろう。それか、修道院か。


 ヴァーツァ・カルダンヌという人は悪い人だったみたいだけど、それでもアンリ陛下の友人だったことに間違いないと俺は確信している。

 友人の遺体を置き去りにして帰っちまうなんてな。アンリ陛下って……。


 村には人の気配が全くなかった。いったい誰が柩の管理をしてくれているのだろうか。

 途方に暮れていると、何かが目の前をすうーっと過った。


「ネズミ!」


 頭に黒い筋の通った、大きなネズミだった。

 鼠は道の真ん中で立ち止まり、こっちをじっと見ている。それからくるりと前へ向き直り、走り始めた。

 少し走って立ち止り、再び振り返り、俺を見つめる。


「なんだ、お前。ついてきて欲しいのか?」


 俺が問いかけると、そうだというように、しっぽを上げてぱたぱたと動かした。

 おもむろに、ちょろちょろと走り始める。

 こうしていても、何の解決策もないのは明らかだった。辺りは暗くなりかけている。

 俺はネズミの後をついていった。


 丘を登ると、目の前に礼拝堂があった。

 礼拝堂、だと思う。とにかく、人々が祈りを捧げる場所だ。


 断言する自信がないのは、神や天使の像や、それらを象ったステンドグラスなどが、全く見当たらないからだ。

 というより、全てが破壊されている。


 ネズミは建物のどこかに消えていった。


 礼拝堂は、まるで廃墟のようにしんと静まり返っていた。少し考え、ここまで来たのだからと、中へ入ることにした。


 中もやっぱり荒れ果てていた。壁の絵画は切り裂かれ、説教台や椅子は倒されている。

 どこに隠れたか、ネズミの姿は見えない。


 日が暮れ、辺りはすっかり暗くなっている。

 王都からの長旅でくたくただった。とりあえず、今夜はここで一泊することにした。不気味な建物だが、野宿よりはマシだろう。


 建物の全貌はわからないが、どこか使える部屋があるだろうか。せめてマットレスかベッドのある部屋が。ノミやその他の虫がいないといいんだけど。


 礼拝堂は二階建てだった。どうやら二階が住居部分らしい。とりあえず、上へ行くことにした。一階よりは湿気が少ないだろうし。


 階段に足を掛ける。僅かな月明りでは、足元が心もとない。

 日常魔法で、足元を照らし、階段を上っていった。


 上ってすぐの部屋のドアを開ける。鎧戸が閉まっており、黴臭い。ベッドやソファーの類はなかった。

 次の部屋も似たようなものだった。

 その次の部屋も。


 どうしよう。鞄を枕に、床に寝るしかないかな。


 3つ目の部屋のドアを閉じた時だった。

 廊下の先で、オレンジ色の光がぼう、っと灯った。

 俺の魔法じゃない。

 けれど、悪い感じはしなかった。何か温かい波動を感じる。


 オレンジの光に吸い寄せられるように、歩いていく。光は俺を導くようにゆっくりと進み、一つの部屋の前でぽっと消えた。


 少しだけためらってからドアを開ける。

 清浄な月の光が溢れるような室内には、豪華な天蓋付きのベッドが置かれていた。







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