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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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57 嫉妬に狂って


 王都のルダンヌ邸に戻ると、ヴァーツァは、ぐったりと長椅子に腰を下ろした。

 やっぱり彼は、相当疲れているようだ。


 この館には使用人がいない。ヴァーツァの話では、この館は一時、国に接収されていたという。ヴァーツァの戦死が信じられた為だ。使用人たちは解雇された。つまり、公共墓地に葬られた。なにしろ彼らは、ゾンビだから。

 使用人がいないので、勝手に湯を沸かし、熱い紅茶を入れた。少し考え、ブランデーを垂らす。

 部屋へ持って行くと、ヴァーツァはまだ、長椅子に座ったままだった。


 「シグ。君は言った。陛下は俺の親友などではない、と。島の別邸で。君が島を出ていく前に」

両手で顔を覆った。

「君は、俺がアンリ陛下に会うことも止めた。許してほしい。俺は、君の言う事に従わず、あまつさえ君を責め立て、島から追い出した」

「僕が勝手に出て行ったんです、ヴァーツァ」

そっと紅茶茶碗を彼の前に置く。かぐわしいブランデーの香りが立ち上った。

「違う。確かに俺は君を追い出した」

 顔を覆った両手の間から、静かなため息が漏れた。

「君の言う通り、陛下は、俺を軍の仲間やペシスゥスの民から隔離しようとしたのだろうか。俺を、ひとりぼっちで高山の上に葬ることによって。陛下にとって俺は、邪魔者だったのだろうか」


 間違いないと思う。

 勇敢で戦勝を重ねるカルダンヌ公は、国民に人気があった。アンリ陛下よりよほど。

 彼がクーデターを企てれれば、王制などたやすく転覆させられたろう。

 もっとも、ヴァーツァにそんな気は毛ほどもないことは、よく知っているけれど。けれど、アンリ陛下がどう考えるかはわからない。


 「ヴァーツァ」

 顔を覆った手の甲を、俺は優しく撫でた。

 彼の深い悲しみが伝わってくる。

「僕は貴方の味方です。誰が貴方の敵に回ろうと、たとえ貴方が間違っていても、俺は生涯、貴方を離れない」

「シグ」

 両手を鷲掴みにされた。

「君はいつも迷いがなく、公平だ。教えて欲しい。どうして君は、アンリに疑惑を抱いたのか」


 アンリと言った。

 陛下のことを、「アンリ」と。

 そのことに地味に傷ついた自分がいる。


「傷です。あなたの、背中の傷」

「あれは……」


 にわかにヴァーツァの顔が恥辱で染まった。

 敵に背中を向けるから、背中を斬りつけられる。軍ではそう言われてきた。

 俺は首を横に降った。


「卑怯者の証などではありません。貴方の背中の傷は、上から下へ斬りつけられていました。当時貴方は、馬に乗っていた。その貴方の背後から近づき、上から下へと、剣を振り下ろすことができるのは、同じく馬上の騎士しかいません」

「馬上の……騎士」

「まだ敵は到達していませんでした。ゾンビの兵士は歩兵ばかりです。そして騎兵は……」

俺はゆっくりと続けた。

「騎兵は、王の護衛兵ばかりでした。軍に属する騎兵が、指揮権を持つ将校を襲うとは思えません。貴方より身分の上の将校の命令がない限り」

「あの時、俺より身分が上の将校は一人しかいなかった……」


 前衛隊指揮官であるヴァーツァより、身分が上の将校。それは、最高司令官しかいない。ペシスゥス軍の最高司令官は、国王だ。


「君は、全てを論理的に考えていったのだな。感情に任せたわけではなく、しっかりとその目を見開き、考え、ひとつずつ組み上げていったのだ。それを俺は……。シグ。許してほしい」

「怒っていません」

「てっきり俺は、君が嫉妬に狂ったのだと思ったのだ」

「嫉妬に……狂った?」

「君は、アンリ陛下に妬いていたのだろう?」




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