表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/64

54 口寄せ

 「次は、ええと、王城を出てすぐか……」

先を歩いていたヴァーツァが立ち止った。

「ん? シグ、どうかしたか?」

「いいえ。何でもありません」


 アンリ陛下に対峙した時の自分の感情を分析する。

 恐怖と驚きと喜びと。

 そう。確かにそこには喜びもあった。

 だってヴァーツァは、生涯最後の恋と言ってくれた。もし、王妃様の言ったことが真実なら、アンリ殿下は、ヴァーツァの幼馴染であり、()()()()()だ。その殿下に、ヴァーツァは、俺を生涯最後の恋人にしたいと宣言してくれたのだ。



 宮殿から続く歩道の脇には、小さな石碑が建てられていた。石碑には、ここが内務大臣が亡くなられた場所だと記されていた。


 「内務大臣は、雷に打たれて亡くなられたんですよね?」

気を取り直し、尋ねた。いよいよ、ヴァーツァの冤罪を晴らすのだ。彼は王都に祟ったりしていない。

「その通り。おおい、君」

通りかかった衛兵をヴァーツァが呼び止めた。

「ちょっとここへ座ってくれないか? 立ちっぱなしでも構わないが、倒れたりすると大変だから」


 顔に疑問符を浮かべたまま、それでも衛兵は言われたままに、その場にしゃがみ込んだ。

 わけがわからないのは俺も同じだ。


「彼に何をするんですか?」

「口寄せだよ。ネクロマンサーの特技の一つだ」

あっさりとヴァーツァは答えた。

「口寄せ?」

「死んだ魂を、生きている人の身体に呼び込むのさ」

「危険はないのですか?」

 死霊を生者の身体に、って、なんだか怖い気がする。

 ヴァーツァは首を横に振った。

「たまに死霊の方で離れていかないことがあるけど、俺ほどの実力者になると、そんなことは、滅多にない」

「それは……」

 言いかけた俺の口を、ヴァーツァは素早く封じた。

「君の言いたいことはわかる。大丈夫だ。この兵士に害が及ぶような真似は決してしない。ネクロマンサーの威信にかけて」


 それなら信じてよかろうと思った。そして、ヴァーツァも、随分と人を思いやることができるようになったんだなと感動した。目下の人間に対しても、きちんと礼儀正しく接することができる。


 ヴァーツァは衛兵に向き直った。

「もっと尻を落として、しっかり座る」

「は、はい」


 両足を前へ投げ出した姿勢で座り込んだ衛兵の前で、ヴァーツァは目を閉じた。紫色の光が消え、静謐な美しさに満たされる。

 まもなく衛兵の顔から表情が消えた。

 続いて、俄かに不信そうな色が現れ、彼は辺りをきょろきょろし始めた。


 ヴァーツァの目が、ぱちりと開いた。紫の瞳は赤味を帯びている。


「クォール内務大臣」

「君か、生きていたのかカルダンヌ公」

 先ほどとは似ても似つかぬ堂々とした態度で、衛兵は答えた。

 内務大臣の霊が乗り移ったのだ。

「戦死は誤報です。幸いにして、私は今しばらくの命を許されました」

「それが幸いであるかは、神のみぞ知る。君の最期が安らかであることを祈る」

「貴方は……貴方の死は、安らかではなかったのですか?」


 いきなりヴァーツァは確信に迫った。

 うっすらと笑みが、衛兵の頬に浮かんだ。


「一瞬であった。それはまさしく神の一撃、天からの啓示だったのだよ」

 落雷を言っているのだ。

「なるほど。死は一瞬だったのですね」

 兵士……というか、内務大臣は頷いた。

「老衰の苦しみを味わわずに済んで、儂は幸せだった」

「そんな……貴方を愛する人にはとんでもない驚きと苦痛であったはずです」


 思わず俺は、口を出してしまった。

 衛兵は微笑んだ。


「優しい男だな、そなたは。よいのだよ。私は家族に疎まれていたから。後添えに迎えた妻は若い男と通じ、前妻との間に生まれた娘たちは、家に寄りつかない。昔から儂は、家庭を顧みなかった。自業自得と言えば、それまでだが」

「奥さまは、きっと後悔されているはず。娘さんたちだって、貴方の死に涙を流されたはずです」

「おお、優しい、優しい男じゃ。そういう人間を、儂は求めておった。いや、今からでも遅くはない。そなた、名はなんという?」


()ね!」

 突然ヴァーツァが叫んだ。


 衛兵がばたんと真後ろへ倒れる。立っていたら後頭部を強打しただろう。ヴァーツァの言うとおりだ。危ない所だった。

 しばらくすると、倒れた衛兵がもぞもぞと起き上がった。自分の身に何が起きたか全く理解できていないようで、不思議そうな顔をしている。


「ご苦労だった。君、疲れたろう。礼をやろう」

 懐に手をやり、ヴァーツァはいくばくかの金を差し出した。きょとんとしている衛兵をその場に残し、さっさと歩きだす。

 慌てて俺は彼の後を追った。


「な。俺は目下の者にもうまく接することができるようになっただろう?」

 くるりと振り向き、ヴァーツァが言う。

「ほめてくれ」

「偉いです、ヴァーツァ」

「もっと」

「随分立派になりましたね、ヴァーツァ」

「うん」


 ヴァーツァは嬉しそうだった。俄かにその顔が険悪になる。


「それにしても、あのじじい、死んでからも煩悩でいっぱいだったな」

「そんなことはありませんよ。家族とうまくいかなかったなんて、かわいそうな人じゃないですか」

「全く君はお人好しの権化というか……あいつはシグ、君を連れて行こうとしたんだぞ。君に横恋慕しやがって。全く、なんてこった!」


 ヴァーツァの言っていることはいまひとつわからなかった。横恋慕? 内務大臣の霊が俺に? ありえない。


「でもまあ、神の一撃というからには、雷に打たれて亡くなったのに間違いはあるまい。内務大臣の死にも作為性はない」

 ぽつんとヴァーツァがつぶやいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ