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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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52 続きをしよう

 気がついたら、俺は、ヴァーツァの腕の中にいた。

「可愛いシグ。俺が君を訪れなかったと思って、そんなにも苦しんでいたなんて」

 例によって、頭頂部にすりすりしてくる。

「違っ、違う、ちがう!」

「違わない。今、君自身がそう言ったばかりだ」


 言ったっけ? 俺、そんな恥ずかしいこと……。


「自分よりアンリの方を優先させたと言って嫉妬するし、一度も自分の家に来てくれないからってスネるし……」

「そんなことしてない!」


 いや、本当か?

 違う。

 ヴァーツァが悪い。ヴァーツァが振り向いてくれないから。


「なあ、シグ。強情を張るのは止めよう? 人生は短い。こうなったからにはひと時の快楽に身を任せて、だな……」

「どいて!」

 思いっきり突き飛ばした。

 どうしてこんな時に!

 なんでいつもいつも体が先なんだ?

 弾き飛ばされ、ヴァーツァは口を尖らせた。

「だって君は俺を愛しているんだろ?」

「あ、貴方はどうなんです? 僕をからかっているだけなんでしょう?」


 こんな人たらしの餌食になりたくない。男も女も、国王さえもたらしこむような……。

 でもヴァーツァは、島からの帰途、俺が危険でないように、トラドさんをつけてくれた。いや、違う。そんなの、愛なんかじゃない。ただの心配だ、客人に対する気配りに過ぎない。


「あなたはひどい人だ。僕の友人たちに悪夢を見せたり、食欲不振にしたり。彼らは……、」

「彼らがどうしてそんな目に遭ったか、君は考えたか?」

静かな声が割り込んだ。

「は?」

意味が分からない。

「だから、俺がなぜ、大家の孫や王都警備軍の男に祟ったか、だ」

「……祟ったんですか?」

「いやまあ、その。メルルとその眷属を使役して食べ物を汚染したり、眠ってる側で運動会をしたり、可愛いもんだがな」

 食べ物を汚染? うげ。なんてことを……。

「なぜ、俺が彼らにそうさせたと思う?」

「……知りません」


 つぶやき、俺は俯いた。

 前にヴァーツァが言っていたことを思い出したからだ。


 まだ島にいた頃。早く王都へ帰らなくちゃと申し出た俺に、戦争の報告書を書くよう、ヴァーツァが言いつけた時だ。

 あの時彼は、俺に関するいろいろを調べたと言っていた。勝手に調べられてむっとしたけど、それに、なんだかごにょごにょ言っていたので聞き取りづらかったけど、あの時、確かに彼は、ジョアンとシュテファンのことを言っていた。


 ……「君に関することは、大方、調べておいた。貧乏長屋に住んでいることも、大家に可愛がられているのはいいが、その孫がやたら顔を出してくることも……全くけしからんことだ……、ちょくちょく訪れる友人の男がいることも。これはもう、許すことができん」


 こほん。ヴァーツァは咳払いをした。

「嫉妬は愛の証明にはならないか?」

「知りません!」

「君はアンリに嫉妬した」

「……」

言葉に詰まった。真っ赤になって俺は俯いた。

「かわいいやつ」

 再び抱き寄せようとする。しまった。油断した。

「互いの愛も確認できたことだし、さあ、続きをしよう」

「え? ちょっとヴァーツァ! え、え、え?」


 封じ込めている腕の力が抜けたと思ったら、目にもとまらぬ早業で、くるんと上着を剥ぎ取られたので驚いた。

 さすがというか、手慣れている。

「邪魔だ」

 間髪入れず、シャツのボタンにとりかかろうとする。

「あの時、ちらっと見えたんだ。君の家に行った時、襟の隙間から、ちらっと。バラ色でとても可愛らしかった。それなのに……。それからずっと俺は欲求不満だ」


 一体何を見たと言うんだ、この男は。俺の服の中に、バラ色の?

 顔が、最上級に赤く染まる。


「それなのに、『いやらしい生霊』はないよな。傷ついたぞ、あの時は」

 焦っているのかボタンがうまく外れず、いきなり引き千切ろうとした。

「ダメ! これは借り物です!」

 お茶会に着ていく服がなくて、シュテファンに借りたのだ。ボタンが千切れたら、何と言い訳したらいいか……。

「そんなん、新しいのを買って返せばいい」

ヴァーツァは平気だ。

「カルダンヌ公!」

 思わず名を呼び、必死で俺は考えた。そうだ。まだ問題が残っている。

「こんなことしている場合じゃないでしょ。王都人々の、貴方への冤罪は晴れたんですか?」

「だから、ヴァーツ、は? 冤罪?」

 ヴァーツァは、じれったそうにシャツを撫で回す。どこかに開口部がないか探しているようだ。

「王都の霊障は貴方の仕業だという冤罪です」

「ああ、あれね。どうでもいい。俺のやったことじゃないからな。今はこっちのが大事」

 勢いよく前立てを引っ張ろうとする。

「よくない! 大事な貴方をひどく言われたなんて、僕は許すことができません!」

「……うん?」

「大好きなあなたが、ヴァーツァが、人から非難されるなんて!」


「ふ。ふふ。ふふふ」

 ヴァーツァの手が止まった。

「『大事な貴方』。『大好きなあなた』」


 歌うように繰り返す。俺にとってはひどい恥辱プレイだが仕方がない。こんなところで慌ただしく全裸にむかれてことに及ばれるより、よっぽどいい。


「そうです。僕の大切なカルダンヌ公が、王都を祟ったと決めつけられるなんて、我慢がなりません」

「うん。うん。それで?」

「だ、大好きなあなたが、無実の罪で人から非難されるなんて、耐えられない!」


「じゃ、出かけるか」

 さっき自分が剥ぎ取ったばかりの上着を拾い、俺に羽織らせる。

「どこへ?」

「まずは、きれいな公爵夫人のところかなあ」




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